Q 私たち夫婦は、息子が結婚して独立し、2人で私名義の自宅に
  住んでいます。
  最近、年をとったせいか庭の手入れが大変になり、2階建てで
  日々の階段の上り下りもしんどくなってきました。
  友達にその話をしたところ、自宅は人に貸して、
  どこか住みやすいマンションに引っ越したら?と言われました。
  たしかに、賃料が入ってくるのであれば、それもいい方法かなと
  思いますが、いずれは息子がこのうちで住むことになるかも
  しれませんので、人に貸すのであれば一時のことにしたいのです。
  何かよい方法はありますか?

A 定期借家契約という方法があります。
  以前は、借地、借家というと、借りる側が保護され、有利になるように
  法律が決められていました。平成11年に改正された借地借家法では、
  その点が改められ、大家の側の事情にもある程度配慮されるようになりました。

  その1つとして、定期借家契約という制度があります。
  以前の法律では、一旦家を貸してしまうと、明け渡しを求める
  正当な理由がない限り契約が更新されてしまい、返してもらうのに
  一苦労することがしばしばありました。
  これに対して、定期借家契約は、期間を定め、期間満了時には
  更新しないという条件で賃貸することができるのです。
  この契約では、貸す人は契約の際に、借りる人に対して、
  期間満了時に更新しないこと等を書面で説明しておかなければ
  なりません。また、期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に、
  期間満了時に契約が終了することを通知しなければなりません。
  借地借家法には手続きについての細かい規定が定められていますが、
  そういった手続きさえきちんとしておけば、返してもらいたい
  時期には確実に自宅を返してもらうことができますので、
  お尋ねのような場合には、有益な方法なのではないかと思います。

  いずれにしても、契約書等に不備があるといけませんので、
  弁護士に相談しながら進められるとよいと思います。

                         (2016.2)
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Q 私の両親は、借地上に父の名義で建物を建て、
  夫婦で長い間暮らしてきたのですが、数年前に母が亡くなり、
  父も先日亡くなって、自宅は空き家になってしまいました。
  周りの人から、建物を壊して立ち退かないといけない、と
  言われているのですが、壊そうと思うと相当費用がかかります。
  何かよい方法はないでしょうか?

A まず、お父様が亡くなられたことによって、お父様が地主と
  締結していた借地契約がどうなるかですが、
  終了するわけではなく、借主としての地位を
  相続人が受け継ぐことになります。

  契約が終了していない以上、
  相続人であるあなたが建物を壊す必要はなく、むしろ、
  お父様がされてきたように地代を支払わなければなりません。

  地代の支払いを継続している以上、借地契約の期間が満了したとしても、
  地主が契約を更新しない正当理由がなければ、契約は当然に
  更新されますし、仮に更新されない場合には、地主に対して、
  建物を買い取るよう請求する権利があります。

  逆に、地代の支払いを滞った場合、借地契約を解除された上に、
  建物の買い取りを請求することもできず、建物を壊して
  立ち退かないといけなくなる可能性もありますので、
  注意して下さい。

  なお、空き家で、今後も住む人がいないので、
  地主さんと借地契約を合意解約するという方法もあります。
  その場合、建物をどうするかについては、地主さんとよく話し合いをし、
  建物を壊さずにすめば一番よいですね。
  地主さんとの話し合いが不安だという場合には、弁護士にご相談ください。

                         (2015.7.28)
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Q 私は、ビルの5階を事務所として賃借していましたが、
  いわゆるピッキングの被害に遭い、室内に保管していた
  貴金属類や現金等をそっくり盗難されてしまいました。
  賃貸人は、最近近隣でピッキング被害が多いことを
  知っていたのですから、
  鍵を交換する等の被害防止策を講じるべきだったのであり、
  盗難にあった損害を賠償してもらいたいと思うのですが、
  無理でしょうか?

A 契約の内容次第ですが、おそらく無理でしょう。

  そもそも、賃貸借契約において、賃貸人が負うべき義務は、
  賃貸物件を使用・収益させる義務、
  使用収益に必要な修繕を行う義務等であって、
  あなたが言われるような、賃借人の所有財産を盗難等から保護する
  ことを内容とする管理義務が当然にあるわけではありません。
  契約の中で、そのような特約がある場合に、
  認められる余地があるという程度のことです。

  この点、賃貸人が、近隣でピッキング被害が多いことを
  知っていたからと言って、
  賃借人であるあなたとの間で、事務所の防犯について特段の
  合意もないのであれば、賃貸人は、
  いま使っている鍵を維持管理すること以上に、賃借人の
  盗難被害を防ぐべき義務は負っていないといえます。

  あなたとしては、ピッキング被害が多いことを知った時点で、
  事務所に高価な貴金属類は置かないとか、
  あなたのほうから賃貸人に対して鍵の交換を依頼するとか、
  自衛の手段をとるべきだったと思います。

  あなたと同様の事案で、多くの裁判例が賃貸人への請求を棄却しています。
  お気の毒ですが、あきらめて下さい。

                         (2015.5.26)
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Q 当社は、学習塾を開く目的で、
  期間4年と定めて建物を賃借しました。
  ところが、思いの外入会者が集まらなかったため
  賃料の支払いが困難となり、
  10ヶ月後に賃貸借契約を解約せざるをえなくなりました。
  そうしたところ、契約に
  「期間満了前に解約する場合は、
  解約予告日の翌日から期間満了日までの
  賃料相当額を違約金として支払う」旨の
  条項があることを理由に、
  3年2ヶ月分の賃料相当額を請求されています。
  当社はこれを支払わなければならないのでしょうか。

A 結論からいうと、全部を支払う必要はないのではないかと思います。
  
  期間の定めのある賃貸借において、
  賃借人が途中で解約した場合の違約金は、
  賃貸人が新たな賃借人を確保するまでの間、
  建物を有効利用できないことによる損害を賠償する趣旨で定められています。

  この点、3年2ヶ月もの長期間、
  賃貸人が新たな賃借人を確保することが困難となるとは
  普通は考えられないでしょう。

  判例は、このような事案で、かかる条項について
  「賃借人に著しく不利であり、賃借人の解約の自由を極端に制約する
  ことになるから、その効力を全面的に認めることはできず、
  1年分の賃料相当額の限度で有効であり、
  その余の部分は公序良俗に反して無効」
  と判断しています。

  このように、契約に書いてあるからと言って、
  すべての約束が有効となるわけではありませんので、
  トラブルが生じた場合には、必ず弁護士に相談しましょう。

                         (2015.4.17)
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Q 私は25年にわたり、隣地の他人の通路を通行しています。
  正確には、うちを含めて数軒の家の間にある通路(私有地)を、
  各家が公道に出るための通路として使用してきました。
  このような場合、私は土地を通行するという法的な権利を
  取得することができるのでしょうか?

A 土地を通行するという権利、
  つまり通行権を時効取得できる可能性はありますが
  (あくまで通行する権利であり、土地を取得できるわけではありません)、
  このようなケースで時効取得を認めていない判例もあります。

  通行権は、法律上「地役権」といい、地役権は、
  継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、
  時効によって取得することができるとされています(民法283条)。

  「継続的に行使」の意味合いについて、判例は、
  通路を必要とする土地の所有者が、自ら他人の土地の上に
  通路を開設しなければならないと解釈しています。

  この点、ある判例は
  「単に隣接する建物相互間の路地を両土地の所有者ないし
  借地権者各自が公道に出るための自然の通路として相互に事実上
  使用し公道の出口に木戸を設置したに過ぎない程度の利用状態」
  の場合には「継続性」を認められないとしていますが、
  他方、既存通路を通路所有者と通路を必要とする土地の所有者が
  共同して、各自の土地を提供するなどして拡張・整備し、
  20年以上にわたって土砂を入れたり、除草するなど既存通路と
  合わせて維持管理にあたっていたという事例で、
  拡幅された通路については、
  通路を必要とする土地の所有者が開設したと認めた判例もあります。

  このように、事案によって判断が分かれるところですので、
  一度弁護士に相談されることをおすすめします。

                         (2015.3.5)
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Q 建物を美容院に貸しているのですが、先日美容院の店主から、
  景気の影響で最近売り上げが激減しているので
  家賃を減額してほしいとの申し入れがありました。
  借主には賃料の減額請求をできる場合があると聞きましたが、
  この申し入れには応じる必要があるのでしょうか?

A 借地借家法32条は、建物の借賃が
  「土地もしくは建物に対する租税その他の負担の増減により」、
  「土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動により」、
  または「近傍同種の建物の借賃に比較して」不相当となったときは、
  当事者は、将来に向かって建物の借賃の増減を請求することができる、
  と定めています。

  今回の場合、「景気の影響で」売り上げが激減しているとのことですが、
  実際に、例えば物価指数が変動する等の経済事情の
  変動があるのかどうかが問題です。

  そうではなく、単に美容院の売り上げが減少しているだけだとすると、
  賃料の減額請求が認められるための要件は満たしていないことになります。

  したがって、物価の変動や租税額の変動、近隣の同種不動産の
  賃料などについて借主から何らかの具体的な主張がない以上、
  減額請求に応じる必要はないでしょう。

                         (2014.12.26)
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Q 私は賃貸マンションに住んでいます。
  1週間ほど前から台所で水が詰まるようになっていたのですが、
  仕事で忙しく、そのまま放置していたところ、
  大家さんから、下の階の部屋まで水が伝わり、服などが濡れてしまったと
  いう苦情が出ていることを知らされました。
  下の階の人から、服のクリーニング代等を請求されて
  いるのですが、私が全部支払わないといけないのでしょうか?

A 全部とはいいませんが、
  ある程度は負担せざるをえないのではないかと思います。

  あなたが普通に台所を使っていたのに水が詰まったのであれば、
  設備の老朽化等の原因が考えられます。
  その場合、大家さんにまずは責任があるでしょう。
  しかし、あなたがその状態を放置しなければ、
  下の階にそれほどの損害は発生しなかったかもしれません。

  水漏れの原因の割合を具体的に特定することは難しいでしょうが、
  大家さんとあなたと話し合って、
  責任を分担し合うのが円満な方法だろうと思います。

  どちらも保険に入っていれば話は早いですが、
  もしあなたが保険に入っていないのであれば、
  大家さんの加入している保険で対応してもらって、
  保険で出ない部分をあなたが支払うといった方法も考えられます。

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Q 私は、ビルの一室を借りて飲食店を営んでいますが、
  ビルに最近入った他の店舗の賃借人から、同じ大きさの店舗で
  うちより賃料が安いことを聞きました。
  周りのビルの賃料も軒並み下がってきているようです。
  私の借りている店舗の賃料を下げてもらうことはできるでしょうか?
  できるのであれば、どういう方法をとったらよいのでしょうか?

A 一定の期間、賃料を増額しないという特約がない場合で、
  現行賃料が経済事情の変動などによって不相当となっている場合には、
  将来に向かって賃料の減額を請求することができます。

  減額請求の方法ですが、まずは、賃貸人に対して
  賃料減額の意思表示をすることが必要です。
  のちに争いになった時のことを考えると、
  配達証明付き内容証明郵便で意思表示をしておくとよいでしょう。

  減額の意思表示に対して賃貸人が応じなかった場合には、
  調停を申し立てします。
  いきなり裁判をするのではなく、法律で、
  まず調停をすべきことになっています(調停前置主義)。

  調停でも話し合いがつかなかった場合には、裁判をすることになり、
  不動産鑑定士に適正な賃料額を鑑定してもらうことになります
  (通常、数十万円の費用がかかります)。
  結果、現行賃料が適正賃料よりも高額であると認められた場合には、
  減額の意思表示をした時点以後、支払いすぎてきた差額分に
  年一割の利息を付した金員が賃貸人から返還されることになります。

  賃借人のほうは、減額の意思表示をした後、適正と考える賃料を
  支払うことでもよいのですが、裁判で適正賃料がそれより高額で
  あった場合、差額に年1割の利息を付して支払わなければ
  ならなくなりますので、注意が必要です。

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Q 私は、マンションの一室を所有していますが、
  先日、マンションの管理組合の理事長が、
  総会決議をえないで、共用部分に衛星アンテナを設置する工事を行い、
  300万円もの費用を支払いました。
  これは、違法な支出であり、
  私たち各区分所有者の共有財産を侵害する行為ですので、
  区分所有者として損害賠償請求しようと思いますが、
  できるでしょうか?

A たしかに、管理組合の財産は、各区分所有者が支払った
  管理費や積立金によって成り立っているのですから、
  各区分所有者の財産権が侵害されたという考え方も
  なりたつとも思えます。

  しかし、同様のケースで、
  各区分所有者による損害賠償請求を認めていない判例が
  あります(東京地裁平成4年7月16日判決)。

  同判例は、
  管理組合は、法律的には「権利能力なき社団」という団体であり、
  管理組合の財産は、組合の総構成員の「総有」に属するものであって、
  構成員は当然にはこの財産に対し共有持分権又は分割請求権を
  有するものではない、として、
  区分所有者による不法行為に基づく損害賠償請求を棄却しています。

  したがって、管理組合の財産が侵害された場合には、
  管理組合自体が当事者となって損害賠償請求するほかないと思われます。

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Q 私は賃貸マンションに住んでいます。
  先日、排水管がつまってしまったため、
  大家に修理をお願いしたのですが、
  いくら言っても修理をしてくれません。
  大家には修繕義務があると聞いたので、直してくれないなら私も
  家賃を支払うのをやめようと思います。
  何か問題があるでしょうか?

A 確かに、賃貸人には、賃借人に対し、目的物を使用・収益させる義務があり、
  目的物の使用・収益に支障が生じた場合、賃貸人は、その支障を取り除くため、
  目的物を修繕する義務を負います(民法606条1項)。
  そのため、賃貸人が修繕義務を履行せず、そのために賃借人の
  使用・収益に支障が生じた場合には、修繕義務が履行されるまでの間、
  賃借人が賃料の支払を拒むことができる場合があります(民法533条)。

  しかしながら、修繕義務の不履行が賃借人の使用・収益に
  及ぼす障害の程度が一部にとどまる場合には、
  賃借人は、当然には賃料支払義務を免れるものではありません。
  すなわち、賃料の支払いを拒めるのは、使用・収益に支障を生じる
  範囲に限定され、使用・収益が部分的にできないのであれば、
  使用・収益できない部分の割合に応じて、賃料の支払いを
  拒絶できることがあるにすぎないのです
  (その場合でも、ただ拒絶するだけでは足らず、
  修繕義務の不履行を理由として賃料支払を拒絶する旨を
  明示しなければなりません)。

  判例上は、本件のような排水管の閉塞について、
  賃料の3割相当額の支払拒絶を認めているものがあります。

  また、大家に修繕義務があるといっても、
  賃料が低額に抑えられている場合には、
  修繕義務が否定される要素となる場合もあります。
  
  このように、事案によって、賃料の支払を拒絶できるケースかどうかは
  様々ですので、安易に賃料支払いをストップすることは、
  退去を請求されうるので、危険です。
  弁護士に相談して対応を検討することをおすすめします。

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Q 父が亡くなり(母は既に他界)、
  私と兄で遺産分割の話し合いをしなければなりません。
  遺産としては、AとBの2カ所の土地だけなのですが、
  AとBでは、土地の評価に大きな違いがあり、
  兄がAを取得するなら、私はBを取得した上、
  兄弟公平になるよう兄に差額を支払ってほしいと思っています。
  差額の計算は、どのようにすればよいのでしょうか?

A 遺産の評価の問題ですね。
  まず、評価の時期は、相続開始の時(お父様が亡くなった時)ではなく、
  遺産分割時とするのが一般的です。
  相続開始後、遺産分割がまとまるまでに相当時間がかかることもありますが、
  実際に分割協議が成立した時点の評価で考えるべきということです。
  次に、評価方法ですが、土地の場合、路線価や固定資産評価額、公示価格、
  基準地価と様々な評価方法があり、複雑です。

  
  この点、遺産分割は相続なのだから、相続税評価(路線価)で評価するものと
  考える人もいると思いますが、本来はそうではありません。
  相続税評価は、あくまで相続税算出の基礎となる価格にすぎません。

  
  遺産分割の場合には、まず、相続人間で評価の方法を合意できれば、
  どの方法をとってもかまいません。
  家庭裁判所で遺産分割調停を行う場合には、相続人間に争いがなければ
  固定資産税評価額で評価することも多いようです。

  
  そうは言っても、あなたのように、兄弟公平になるように差額を支払って
  ほしいと言う場合、できる限り多く差額を払ってもらえたほうがいいわけですから、
  いわゆる現在の時価(実勢価格)で評価するのが妥当でしょう。
  相続税評価は実勢価格の約8割、固定資産税評価額は実勢価格の約7割と言われています。

 
  また、時価(実勢価格)の評価にあたっては、不動産鑑定士に依頼して
  行う場合もありますが、それなりに費用もかかりますので、
  相続人間で合意できるのであれば、近隣の不動産業者数社に
  査定してもらうという方法も簡便でよいのではないかと思います。

  
  まずは、お兄さんと、評価の方法についてよく話し合ってみて下さい。

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Q 一人暮らしをしていた母が亡くなり、自宅が空き家にな-りました。
  一人っ子である私が家を相続しましたが、私自身は、
  結婚して夫と建てた家があり、特に住む必要がありません。
  ただ、将来息子が結婚して住むかもしれないので、それまでの間、
  誰かに貸しておきたいと思います。
  こういう場合、賃貸借契約をむすぶ際に注意することがありますか?

A 通常の建物賃貸借契約を締結するだけでは、将来息子さんが結婚して
  住みたいとなったときに、借りている人に出て行ってもらうのが
  難しくなる可能性があります。
  将来のことを思えば、「定期建物賃貸借契約」という契約を
  締結するほうが無難です。
  
  「定期建物賃貸借契約」とは、貸す期間を区切って、期間が終了すれば
  契約が更新しないという契約です。
  通常の賃貸借契約でも、貸す期間を区切っているのは同じですが、
  家主のほうから契約更新を拒絶するには正当な理由が必要であり
  (多くの場合、立退料の提供が必要となります)、
  正当な理由が認められない以上、基本的に契約は更新されてしまいます。
  この点、「定期建物賃貸借契約」であれば、正当理由の有無にかかわらず、
  基本的に期間が終われば契約は終了し、更新しないのです。
  
  このように、「定期建物賃貸借契約」は、通常の建物賃貸借契約に比べて
  借主に不利な条件を認める契約ですので、この契約を締結する前には、
  通常の賃貸借契約と異なり更新がないことについて、きちんと書面で
  説明しておかなければなりません。
  さらに、期間の終了する半年前から1年前の間に、期限が来たら
  契約が終了することを家主は通知しなければなりません。

  あなたの場合、息子さんの年齢を考えて数年間で期間を区切り、
  この「定期建物賃貸借契約」を締結して上記の手続きをきちんとすれば、
  期間の終了時にすみやかに借家人に出て行ってもらうことができます。
  なお、契約締結の際には、弁護士に相談して契約書を作成してもらうことをおすすめします。

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Q 私の父は、叔父が所有する土地の上に建物を建てて、家族で住んできました。
  父と叔父との間では、地代を支払う約束はなかったようです。
  このたび、父が亡くなり、私が建物を相続したのですが、
  叔父の土地を相続した叔父の長男から、建物を取り壊して
  出て行くように要求されています。
  この要求に従わないといけないのでしょうか?

A あなたのお父さんと叔父さんとの間では、無償(ただ)で土地を使ってもよい
  という約束、使用貸借契約があったものと認められます。
  
  民法上、使用貸借契約は、借主の死亡によって効力を失うと
  定められており(民法599条)、この規定を見る限り、
  土地の借主であるお父さんの死亡によって、土地の使用貸借契約は終了し、
  建物を相続したあなたは土地を使用する権利がないようにも思われます。

  しかし、お父さんと叔父さんとの間の土地使用貸借契約は、
  土地上の建物を使う必要がある限り続くことを予定しているのであって、
  お父さんの死亡という一事をもって建物を使う必要がなくなるわけではありません。
  このような場合には、土地建物の使用状況からして、いまだ使用貸借契約は
  終了しないと考える余地があります。

  東京地裁昭和56年3月12日判決は、このようなケースにおいて、
  「建物所有を目的とする土地の使用貸借においては、当該土地の
  使用収益の必要は一般に当該地上建物の使用収益の必要がある限り
  存続するものであり、通常の意思解釈としても借主本人の死亡により
  当然にその必要性が失われ契約の目的を遂げ終わるというものではない
  から・・・民法599条が当然に適用されるものではない」として、
  建物の相続人による土地の使用継続を認めています。
  

  したがって、あなたの場合も、叔父の長男からの要求には
  従わなくてよいと認められる可能性があります。

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Q 我が家が建っている土地は、何十年も前に父が、周り一帯の土地を
  所有している隣人から、一部土地を分筆してもらって購入した土地です。
  我が家の土地の周りには公道がなく、すべてその隣人の所有する土地に
  接しているので、公道に出るために、従前から隣人の所有地を通行してきました。
  先日、その隣人が亡くなり、相続人である息子さんから、
  過去の分も含めて通行料を払うよう要求されています。
  払わなければならないのでしょうか?

A あなたの家の土地のように、他人の土地に囲まれた土地を袋地(ふくろち)といいます。
  袋地は、そのままでは実際上利用しようがないので無価値ですが、
  それではあまりに不経済なので、袋地所有者には、
  他人の土地(囲繞地(いにょうち))を通ることが法律上認められています。
  しかし、法律が強制的に通行権を認めるのですから、
  隣地の迷惑も当然のことながら考えなくてはなりません。
  そのため、原則として、通行権は有償、つまり通行料を
  支払わなければならないことになっています。

  ですが、もともと一筆の土地だったものの一部を分筆して売買したり、
  共有物を分割したりした結果袋地が生じた場合には、事情が異なります。
  そのような場合には、当事者間では事前に袋地ができることは当然予想できた
  ことであるし、売買または分割の際に、実質的には一括払いの形で
  通行料を支払っていると考えられます。
  したがって、このような場合、通行権は例外的に無償とされています。
  
  あなたの家の場合、お父さんは、隣人の所有する土地の一部を分筆して
  もらって購入し、その結果、袋地となったというわけですから、
  上記の例外的な場合にあたり、通行料を支払う必要はありません。
  このことは、隣人が亡くなって息子さんが囲繞地を相続しても
  変わるものではありませんので、息子さんからの通行料要求は断ることができます。

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Q 家族で分譲マンションの一室に住んでいますが、
  マンションの住民の中に、専用庭内で野良猫にえさをやっている人がおり、
  最近マンションに寄りつく野良猫の数がすごく増えてきました。
  うちのマンションは、ペット飼育禁止なのですが、
  野良猫にえさをやっているだけでは、禁止に反することもなく、
  この人に対して文句を言うことはできないのでしょうか?

A 猫が増えて、どれほどの事態に至っているかが問題です。
  ペット飼育禁止に反しなくても、マンション区分所有者の共同の
  利益に反し、また、各住民の人格権を侵害したとして、
  えさやり行為の禁止と損害賠償を認めた判例があります。

  この判例の事案では、住民Aの専用庭で子猫が生まれたあと、
  Aが専用庭や自宅玄関前で猫のえさやりを行うようになり、
  少なくとも18匹程度の猫がえさをもらいに集まるようになっていました。
  野良猫が増えたことによって、至る所に猫が糞をし、
  専用庭に猫が飛び降り、通路に猫が多数いて住民は恐怖を感じ、
  不気味に感じるほどだったようです。
  また、猫の抜け毛が飛来するとか、猫が自動車の上に乗り、傷を付ける
  といったこともありました。

  裁判所は、住民らの訴えに対して、
  野良猫といっても、えさやり行為が飼育に当たる程度に達している猫に
  ついては、マンション規約のペット飼育禁止条項に反するし、
  至らない場合でも、少なくとも迷惑行為禁止条項に反する、
  さらには、上述のような住民への被害は住民の受忍限度を超え、
  住民らの人格権を侵害する等として、
  「被告は、マンション敷地及び建物内において猫にえさを与えては
  ならない。」と命令すると同時に、
  原告一人につき10万円前後の損害賠償を認めました。
  この判決は、裁判所が「地域猫活動」について丁寧に論じる等、
  裁判所の扱う事件の幅広さを感じさせる興味深いものです
  (東京地裁立川支部平成22年5月13日判決)。
  参考にしてみて下さい。

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Q 隣の家の庭に植えてある木の枝が、塀を越えて我が家の庭のほうにまで伸びてきています。
  以前に人に聞いた話では、隣の家の木の根っこが境界を越えて伸びてきたときには、
  勝手に切ってしまってもいいということなので、この木の枝も、
  切ってしまおうと思いますが、何か問題はありますか?

A 隣の人の承諾なく、木の枝を切ってしまうのは問題です。
  たしかに、根っこについては、「隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、
  その根を切り取ることができる」と民法233条2項に
  定められており、自ら切り取ることができます。
  これは、境界線を越えて入り込んだ根っこは、侵入を受けた土地の一部になったと
  解される等の理由から定められているものです。

  しかし、木の枝の場合には、民法は、
  「隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、
  その枝を切除させることができる」と定めるにとどまり(民法233条1項)、
  自ら竹木の枝を切除できるとはされていません。
  これは、根っこと違って、枝は土地の一部にはなりませんし、枝については隣地の所有者に
  植替えの機会を与えるべき等の理由から、取り扱いが異なるのです。
  
  この点、別荘地のヒマラヤ杉を隣地の旅館主が伐採したことについて、
  ヒマラヤ杉の所有者から損害賠償の請求がなされた裁判では、伐採した隣地旅館主は、
  民法233条1項に基づき自力救済として伐採したのだから許されると主張しましたが、
  判決は、枝の剪除にとどまらず杉そのものを伐採した行為は、そもそも本項によって
  許されるものではないとして損害賠償請求を認めました。
  
  あなたの場合は、まず、隣地の所有者に枝を切るように請求し、
  相手が請求に応じない場合には、枝の切り取りを求める裁判を起こして、
  最終的には隣地所有者の費用負担で、第三者に切り取らせるというのが一番確実な方法です。
  たかが木の枝のことで裁判までしたくないと思われるでしょうが、たとえば、
  切り取りを求める竹木が、高価な銘木であったり、あなたのほうも、
  枝が伸びていることによって特段何も損害が生じていない場合には、そもそも
  切り取りの請求をしても認められないこともあります。
  ですので、まずは隣地所有者とよく話し合うこと、そして話し合いがつかなかった場合には、
  自分の判断だけで勝手に枝を切り取ったりせず、弁護士などに相談することが必要です。

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Q 地続きの2筆の土地を購入したところ、そのうちの1筆の
  土地上に以前建っていた建物で、かつて殺人事件があったことを
  購入後に知りました。
  事件は約8年前のことだというのですが、
  どうにも気持ちが悪くてたまりません。
  この売買を取り消すことはできないでしょうか。
  取り消しが無理なら、売主に対して損害賠償を請求することは
  できないでしょうか。

A 殺人事件があったとは、衝撃的ですね。
  さらに詳しい事情をお聞きしてみないと何ともいえませんが、
  少なくとも損害賠償請求ができる可能性はあると思います。
  
  不動産取引において、その目的物である土地建物にかつて自殺や
  殺人があったという事実が、目的物の瑕疵(欠陥)にあたるとして
  売買の解除や損害賠償が認められる場合がありますが、
  瑕疵となるかどうかは、法令による明示的なルールがあるわけでは
  ありませんので、個々のケースごとに、自殺・殺人の場所及び事情、
  土地建物の状況、売買までの経過期間、利用目的、地域性などを
  考慮して、判断せざるをえません。
  
  この点、本件のようなケースで、ある判例は「事件は、女性が胸を
  刺されて殺害されるというもので、病死、事故死、自殺に比べても
  残虐性が大きく、通常一般人の嫌悪の度合いも相当大きいと
  考えられること、本件殺人事件があったことは新聞にも報道されており、
  約8年以上前に発生したものとはいえ、本件土地付近の住民の
  記憶に少なからず残っているものと推測されること等から、
  本件土地上に新たに建築された建物を購入しようとする者がその建物を、
  住み心地が良くなく、居住の用に適さないと感じることに合理性が
  あると認められる程度の、嫌悪すべき心理的欠陥がなお存する」
  として、損害賠償請求を認めました。
  
  他方、約7年前に座敷蔵内で首つり自殺があったが、売買前に
  その蔵は取り壊し済みであったという事案で、売買契約時に蔵が
  存在しなかったという理由で瑕疵を否定した判例もありますので、
  あなたの場合も一概に損害賠償請求できるとまではいえません。
  事情をよく検討する必要があります。
  
  いずれにしても、残念ながら、売買契約の解除まで認められている
  ケースは少ないようですので、不動産の売買契約締結前には、
  近所の噂や評判なども可能な限り情報収集しておくことが必要だということです。

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Q 2年前に一戸建てを購入しました。
  しかし、入居の翌日から、隣人に
  「子どもがうるさい、黙らせろ」などと苦情を言われ、
  ひどい嫌がらせを受け続けてきたので、
  思い切って家を売却しようと思います。
  この隣人のことは、購入を希望する人には言わないでおこうと思いますが、
  何か問題はありますか?

A たしかに、そんな隣人がいることを話したら、
  せっかくこの家を買おうと思っている人も買ってくれなくなるかもしれません。
  お気持ちはわかりますが・・・場合によっては問題が生じます。

 
  不動産売買において、ある事柄について売主が買主から
  直接説明することを求められ、かつその事柄が購入希望者の
  契約締結の判断に影響を及ぼすことが予想される場合には、
  そのことについて事実に反する説明をすることは許されないのみならず、
  説明をしなかったり、買主を誤信させるような説明をすることは許されないとして、
  売主に説明義務があるとした判例があります。

  
  この判例では、売主は、隣人から「子どもがうるさい」などと
  激しく苦情を言われただけでなく、洗濯物に水をかけられたり、
  泥を投げられたこともあったというのですが、
  隣人が少しうるさい人であることを知った買主から、
  直接具体的事情を尋ねられた際、売主が
  「隣人からうるさいといわれたことがあるが、今は特に問題ない」
  「近隣の環境に全く問題ありません」と答えたことについて、
  売主の説明義務違反を理由に、
  売主の買主に対する損害賠償義務が認められました。
  

  あなたの場合も、もし買主に隣人のことを尋ねられたら、
  売買代金が何割か下がることを覚悟してでも
  正直に話をしておかないと、あとで損害賠償請求されかねません。
  注意しましょう。