相談:私は、A病院で診療を受けていたのですが、
   ある診療行為が原因で身体に障害が残ってしまいました。
   病院に対し損害賠償請求をしたいと考えていますが、
   今後、どのように進めていったらよいでしょうか。

回答:医療過誤事件は、事件を進めていくにあたって、医学という
   専門的知見を要する事件ですので、その他の事件にもまして
   弁護士に委任することなく事件を進めていくことは困難であり、
   また、法律相談という当初の段階から、事件の見通しを
   立てることも困難です。

   そこで、弁護士は、
   まず、相手方に対し損害賠償請求を行うことではなく、
   事件の見通しを立てるための調査の委任を受けることになります。
   調査の委任を受けた弁護士は、可能であれば、医療機関が
   保管している医療記録(カルテ、看護記録、検査画像等)の
   証拠保全を行います。
   証拠保全を行うことなく、医療記録の写しの交付を
   医療機関に求めると、残念ながら、自己の責任を免れるため
   医療記録の内容を改ざんしてしまう医療機関が存在することから、
   証拠保全という方法を採るのです。
   ただし、証拠保全を行うためには、医師が説明を拒んだとか、
   前後矛盾する説明を行った等証拠保全を行わなければ
   医療記録が改ざん、廃棄されてしまうおそれがあることを
   基礎づける事実の存在が必要です。

   実際の証拠保全手続をわかりやすく紹介すると、例えば、
   証拠保全の期日の正午に
   裁判所の執行官が証拠保全を行う旨の決定書を医療機関に届け、
   その日の午後2時に
   裁判官と弁護士が医療機関に赴き、医療記録のコピーを入手します。
   決定書を届けた2時間後にコピーを入手し始めるのですから、
   時間的に改ざんを行う余裕がないわけです。

   弁護士は、裁判所の記録となった医療記録をさらに謄写し、
   それを時間をかけて検討します。
   また、医学部図書館等で関係する医学文献を入手・検討します。
   そのうえで、患者側に立ってアドバイスをしてくれる
   協力医に医療記録を見てもらい、
   医師に過失があるか、現在の望ましくない結果が医師の過失行為に
   よるものかについてアドバイスを受け、
   弁護士の法律学的知見も交えて、事件の見通しを立てるのです。

   最後に、弁護士は、事件の見通しについて調査した結果を、
   調査を委任した依頼者の方に説明し、
   損害賠償請求を行うべきと考えられる場合には、その時点で、
   あらためて損害賠償請求事件の委任を受けることになるのです。