相談:<その3:交通事故>では、被害者に過失がないケースについてのお話でした。
それでは、被害者に過失があるケース(過失相殺がなされるケース)では、
加害者が入っている任意保険の保険会社との間で、治療費の支払を
めぐって発生する可能性のある問題は、どのようなものでしょうか。
被害者に過失がないケースの場合と、どのような違いがありますか。
回答:加害者に過失があるのであれば、被害者に過失があったとしても、
(1) 保険会社が、直接、医療機関に治療費を支払うこと、
(2) 保険会社が治療費を支払うにあたって、あなたに対し、
あなたの傷病についての情報を直接医療機関から入手することに
ついての同意書に、署名押印を求めてくること、
(3) 同意書への署名押印は原則として応じた方がよいこと、
(4) あなたと保険会社とで症状固定時期について意見の食い違いが生じ、
保険会社が治療費の支払を打ち切ってきた場合、
あなたは自ら治療費を支払って治療を継続したうえで、
後に裁判で症状固定時期があなたの考えるときまでであることを
証明する必要があること、
は、被害者に過失がないケースの場合と同じです。
被害者に過失がないケースの場合と違いがあるのは、
保険会社は、事故直後の治療費の支払いの開始から、あなたに対し、
健康保険による治療を求めてくることです。
同じ治療内容でも健康保険診療の方が自由診療よりも安価であること
(多くの場合、健康保険診療は自由診療の5割安)、
健康保険診療の場合、自己負担分以外は健康保険組合が負担して
くれることは、<その3:交通事故>でお話ししました。
被害者に過失がある場合、自由診療で治療を継続したとしたら、
保険会社が、直接、医療機関に治療費の全額を支払ったとしたら、
どのようなことになるでしょう。
保険会社は、最後の示談交渉の際に、支払った治療費のうち被害者の
過失割合分は、最終的には被害者が負担すべきものとして、
慰謝料等治療費以外の損害から計算上控除して支払額を提示してくるでしょう。
同じ治療内容で、自由診療の治療費が200万円
(健康保険診療の治療費が100万円、また、健康保険の自己負担割合が3割)、
その他の損害(慰謝料等)が200万円、
被害者の過失割合が30%として、
比較してみましょう。
(1) 自由診療で治療した場合
治療費 200万円
その他の損害 200万円
総損害額 400万円(200万円+200万円)
過失相殺 ▲30%
過失相殺後 280万円(400万円×(1-30%))
既払い額(治療費) ▲200万円
支払額 80万円(280万円-200万円)
(2) 健康保険診療で治療した場合
治療費 30万円(100万円×自己負担割合3割)
その他の損害 200万円
総損害額 230万円(30万円+200万円)
過失相殺 ▲30%
過失相殺後 161万円(230万円×(1-30%))
既払い額(治療費) ▲30万円
支払額 131万円(161万円-30万円)
保険会社の求めに応じて、治療開始から健康保険診療とした方が、
被害者にとって経済的に有利であることは明らかです。
交通事故の場合でも、健康保険組合に「第三者による傷病届」を提出して、
健康保険を使用して治療を受けることができることは、
<その3:交通事故>でお話ししたとおりです。