交通事故、離婚、相続、消費者被害などの民事から刑事事件まで、法律に関するご相談なら名古屋・丸の内のアール・イー綜合法律事務所

検索
【Re:あなたのお悩み】お客様のお悩みを真摯に受け止めお応えする、アール・イーはそんな法律事務所です。

弁護士の小窓

適格消費者団体(岩城)

■適格消費者団体とは

 私は消費者被害防止ネットワーク東海(略称:Cネット東海)の
 検討委員を拝命しています。
 Cネット東海は、消費生活に関する情報の収集及び提供、
 消費者の被害の防止及び救済などを目的とし、
 平成22年4月14日に消費者団体訴訟制度の適格消費者団体として
 消費者契約法13条の内閣総理大臣の認定を受けている
 特定非営利活動法人(NPO法人)です。
 以下では適格消費者団体がどのような活動を行っているのか
 紹介したいと思います。

 適格消費者団体は、
 消費者契約法、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)、
 特定商取引法に基づき、
 不当な契約・約款・広告等の使用の差止を裁判所に請求できる団体です。
 差止が認められた最近の例としては、
 サンクロレラ販売社の広告の使用差止
 (京都地裁平成27年1月21日判決)や
 日本セレモニーに対する解約払戻金控除条項の使用差止
 (福岡地裁平成26年11月19日判決・控訴)
 などがあります。

 Cネット東海では、専門学校である名古屋医専に対し、
 入学辞退者の辞退の時期にかかわらず、一律に納付済みの学費を
 返還しない不返還条項の使用の差止等を請求し、
 認容(高裁で和解)された例があります。
 逆に、差止が認められなかった例として、
 大手携帯電話会社3社の解約違約金条項の使用差止を
 求めた事例があります(最高裁平成26年12月11日決定)。

■不当な契約条項の差止とは

 不当な契約条項の使用の差止とは、どのような請求でしょうか。

 飲食店で食事をしたり、日用品を買ったりするなどの契約を除けば、
 ある契約を結ぶ際には、契約書が作成されることが多いと思います
 (後日の紛争を避けるために契約書は作成すべきだと思います)。
 顧客と事業者との間で契約をする場合には、その契約書は、
 通常、事業者が作成したものを使う場合が多いでしょう。

 顧客は、その契約については初めて(またはあまり経験がない)の
 場合が多いと思われますが、
 事業者はその契約を常時締結していますから、
 契約の内容やその契約に関して生じる紛争をよく知っています。
 したがって、事業者は、自己に有利なように契約書の内容を
 決めていることがあります。
 それ自体は特に問題ありませんが、それが消費者契約法に定める
 条項に抵触する場合には、その条項が無効となります
(消費者契約法8〜10条)。

                         (2015.3.20)

■不当な契約条項の差止とは 2

 不当な契約条項とはどのような条項のことでしょうか。

 例えば、中途解約金の不返還に関する条項があります。
 「受講生の都合による受講契約の解除は、
  本人死亡、重大な疾病及びクーリングオフを除いては認められず、
  受講料の返金等は一切応じられません」
 「納入金及び提出の書類は、
  理由の如何にかかわらず返還いたしません」
 「事情の如何にかかわらず、一旦納入された学費は返却いたしません」
 「ご契約後のキャンセル、返金、交換は一切できません」
 などです。

 これらは消費者契約法9条1号や10条に反するおそれがあります。

 消費者契約法に照らして無効な契約条項を使用していたとしても、
 適格消費者団体は、すぐにその条項の差止を求めて
 提訴できるわけではありません。
 まずは、その不当な契約条項を使用している業者に対し、
 団体から「申入書」を送付します。

 申入書には、契約条項のどの条項が消費者契約法のどの条文に
 いかなる理由で反しているのかを明記します。
 それでも申入先の業者が自主的に契約条項を改訂しない場合
 にのみ、提訴することができます。

 当然のことながら、
 申入先の業者に自主的に契約条項を改めてもらうことこそが、
 今後の消費者保護につながりますし、その業者にとっても、
 当該業者の実態に合わせて契約条項の改訂を行うことができるため、
 訴訟外で契約条項を改めてもらうことが、
 双方にとって望ましい解決になります。

                         (2015.5.14)

■不当な表示の差止め

 適格消費者団体は、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)に
 基づき、不当な表示(広告)について、その表示をしている業者に
 広告をやめる(改める)よう請求することができます。
 不当な表示とはどのような表示でしょうか。

 景品表示法では、不当な表示を大きく3つの類型に
 分けて規定しています。
 そのうち、よく見られるのは、
 (1)優良誤認の表示と、(2)有利誤認の表示 です。

 優良誤認とは、商品やサービスの品質や内容について、
 1)実際のものよりも著しく優良であると示すもの、
 又は、
 2)他の事業者の商品やサービスよりも自社のものが著しく優良であると示すもの
 で、不当に顧客を誘因し、消費者による自主的・合理的な
 選択を阻害するおそれのあるものを言います。
 例えば、中古自動車を販売するにあたり、
 走行距離を3万キロと表示していたが、実は10万キロ走行していて、
 メーターを3万キロに巻き戻して販売していたような場合や、
 天然ダイヤモンドと表示して販売していたが、
 使われているのは全て人造ダイヤモンドであった場合など
 がこれにあたります。

 有利誤認とは、商品やサービスの価格その他の取引条件について、
 1)実際のものよりも著しく取引の相手方に有利であると誤認させるもの、
 又は、
 2)他の事業者の商品やサービスよりも著しく有利であると誤認させるもの
 で、不当に顧客を誘因し、消費者による自主的・合理的な
 選択を阻害するおそれのあるものを言います。
 具体的には、基本価格を記載せずに、「今なら半額」と表示したが、
 実は半額とは認められない価格で販売していたような場合です。
 いわゆる二重価格表示はこれに当たります。

 事業者は、消費者に対し、少しでも自社の商品やサービスに
 興味を持ってもらおうとするため、
 様々な広告手法を取っているように思われます。
 したがって、有利誤認に当たるかどうかは、
 当該表示をすることによって、不当に顧客を誘因しているかどうかを
 個別具体的に検討することとなります。

                         (2015.7.17)

■消費者裁判手続特例法1

 適格消費者団体は、消費者契約法や特定商取引法に基づき、
 事業者に対し、差止訴訟を提起することができます。
 しかし、あくまで不当な契約条項や不当な表示の使用を
 差し止めることができるのみです。

 例えば、不当な契約条項がある契約で、
 被害を受けた消費者がいたとしても、適格消費者団体は、
 その消費者の損害を回復させるための訴訟を提起することはできません。
 被害の回復のためには、消費者は、別途、
 民事訴訟、民事調停、ADRなどを利用しなくてはなりませんでした。

 この被害回復の1つのツールとして、平成26年12月に
 「消費者の財産的被害の集団的な回復のための
  民事の裁判手続きの特例に関する法律」(消費者裁判手続特例法)
 が成立しました。
 消費者裁判手続特例法は平成28年12月までに
 施行されることとなっています。

                         (2015.9.17)

   

サクラサイト被害(岩城)

■サクラサイトとは

 「サクラサイト」とは、国民生活センターによれば、
 サイト業者に雇われた「サクラ」が
 異性、芸能人、社長、弁護士、占い師などのキャラクターに
 なりすまして、消費者のさまざまな気持ちを利用し、
 サイトに誘導し、メール交換等の有料サービスを利用させ、
 その度に支払いを続けさせるサイトを言います。
(http://www.kokusen.go.jp/soudan_now/data/sakurasite.html)
 
 このような「サクラサイト」でお金を 支払ってしまったと
 いう相談がなかなか減りません。

 サクラサイト被害は、かつて「出会い系サイト被害」と呼んでいました。
 愛知県では、平成22年に出会い系サイト被害救済のための
 弁護団を結成し、被害救済にあたってきました。
 出会い系サイトの歴史(?)は意外に古く、
 インターネットの普及期に登場したようです。
 当時は、パソコンからアクセスする無料のサイトで、
 利用者はチャットなどで気に入った相手と関係を深める
 というもので、
 現在のような「被害」は見られませんでした。

 平成11年ころから、
 携帯電話によるインターネット利用が可能になり、
 出会い系サイトの利用者も出会い系サイトの数も急増しました。
 これに伴い、「面識のない異性が出会う」ことから生ずる
 様々な問題が露見しました(闇サイト殺人事件など)。

 一方、「面識のない異性が出会う」ことから生ずる問題とは別に、
 サイト利用者が、サイト運営者側のサクラにより、
 延々と有料のメッセージのやりとりをさせられたのに
 「出会えない」という問題も生じました。

 これら「出会えない」ことから生ずる出会い系サイトの詐欺的側面は、
 平成17年ころから報告されるようになりました。
 出会い系サイトは、運営者側(サイト運営業者やシステム業者)
 が作成・管理するいわば「ブラックボックス」ともいうべき
 サイト内でやりとりをします。

 投資詐欺や振り込め詐欺と同じように、
 出会い系サイト被害も、
 多数の人物(サクラ)が登場する組織的詐欺と同じである上、
 利用者はそもそも業者が用意した「出会い系サイト」の中に
 自ら入ってしまっているものですから、
 業者の思うがままに操られてしまうこともあります。

 また、上記のように自ら進んでサイトに登録する利用者は、
 サイト運営者に対して法的責任を問う程の
 被害者意識を持ちづらいことなどから、
 利用者が被害申告に至らないケースも多数あったと考えられます。
 
 このように、
 (1)簡単に騙せる
 (2)騙されていることに気づきにくい
 (3)騙されたことに気づいても被害申告しない
 (4)被害申告されても証拠がすべて業者側にある
 という状態であったため、
 出会い系サイトは、サイト運営業者が莫大な収益を得るための、
 いわば「優れたシステム」として発達・急増し、
 勧誘方法、サクラの手口がますます悪質化・巧妙化しました。

 出会い系サイトは、「異性と出会う」ことを目的とする
 サイトばかりではなく、占いサイトや懸賞サイトなど、
 様々な名目でサイトに誘導するようになりました。
 そのほとんどが、冒頭で述べたとおり、
 「サクラ」を用いてメール交換等のサービスを利用させて
 いることから、私たちは
 平成24年から「出会い系サイト被害」のことを
 「サクラサイト被害」と呼称するようにしました。

 サクラサイトの詐欺的側面は、
 徐々に社会に理解されるようになり、
 サイト運営業者の代表者やサクラのアルバイト10数名に
 実刑判決が下された事案もあります
 (東京地方裁判所平成24年6月29日判決等)。

                         (2014.8.7)

■サクラサイトにのめりこむ理由

 ケータイやパソコンが必ず受信してしまう迷惑メール。
 その中にサクラサイトに誘導するためのメールが多く見られます。
 
 「こういうサイトは『サクラ』がメールを作っているに決まっている」
 「こういうのに騙される人っているの?」
 と思われる方も多数いらっしゃると思います。
 しかし、被害者の方も、被害に遭うまではそのように考えていました。
 騙されている最中は、冷静になって自分の行動を振り返ることができません。

 なぜでしょうか。

 サクラサイトは、ポイント料という「お金」を費消してしまうところに、
 その理由が隠されています。
 
 人が意思決定をして行動する際には、様々なバイアス(※)がかかります。
 サクラサイトからの勧誘メールがおもしろかったので、
 「試しにメールを送ってみよう」と軽い気持ちで利用したところ、
 サクラの送ってくるメールの内容が「ひょっとすると本当かもしれない」と
 思い始め、何度かメールを送り、気づいたら50万円を
 使ってしまったという人の例を考えてみましょう。

 その人は、当初は半信半疑でしたし、お金を支払ってしまった現在も、
 サクラかもしれないとの疑いは持っています。
 しかし、サイトの中で出会った「ミユ」さんや「ケンジ」さんは、
 「あなたがいなくなると、これまで一緒にメールしていたみんなが悲しむわ」
 「私もポイントを買っているの」
 「もう少し続けたら『ミレイ』さんがサイトと話をつけてくれるはず」
 「そうするとみんなのポイント料が戻ってくる」
 「今までも続けてくれたじゃない」
 などとメールを送ってきました。

 こういった内容のメールを受け取ってしまうと、
 (1)これまで自分が50万円のポイント料を
    支払ってきたという行動と矛盾しないように行動する
    「現状維持のバイアス」
 (2)この時点で止めてしまうと、その行動によって
    これまでのポイント料購入という投資の損が確定してしまう。
    そうならないように行動する
    「損切りを避けるバイアス」
 (3)既に50万円を費消しているため、これから費消する
    少量のポイント料の投資は、より喪失感が少ないという
    「感応性逓減バイアス」
 (4)失うポイント料よりも得られる(かもしれない)ポイント料の
    払い戻しに価値を置く
    「損よりも得を高く見積もる評価バイアス」
 などのバイアスがかかり、
 また、上記の例では自分が止めると他の人に
 迷惑がかかるかもしれないという「感情」や、
 ここまで来ると、メールの相手がサクラであっては
 (ポイント料が返ってこないので)困るという「願望」も加わり、
 冷静に考えるとポイント料が戻ってくることなどありえないのですが、
 ポイント料購入という行動を止めないという結果になってしまうのです。

 これらのバイアスのかかった消費者の行動は、
 投資被害にも見られますが、特にサクラサイト事案では
 このバイアスが強く出てしまうのではないかと思います。

 ※ここで言う「バイアス」とは、
  行動経済学上のバイアスのことであり、
  直訳すると「性向」「傾向」という意味です。

                         (2014.10.14)

■サクラサイト事案で用いられる決済手法

 多くのサクラサイトでは、
 サイト内のメッセージの送受信に「ポイント」が必要です。
 1送受信に40〜60ポイントほど必要であることが多く、
 1ポイントが10円です。
 サクラサイトは、この「ポイント」を購入させ、
 サイト内でメッセージを送受信させるよう、
 利用者に様々な内容のメッセージを送信してきます。

 サクラサイトは、「ポイント」の購入に使われる
 決済手段を複数用意しています。
 銀行口座に現金を振り込む方法、クレジットカードで決済する方法、
 コンビニの電子マネーで決済する方法、
 コンビニの収納代行で決済する方法等です。
 利用者(被害者)は、これらの決済方法にて利用料を支払わされています。

 サクラサイト被害が急増したのは、
 多様な決済手段が用意されていることと無関係ではありません。
 サクラサイトは、インターネットを通じた詐欺商法です。

 その被害は時間や場所に関係なく、全国どこででも、何時でも生じます。
 また、(騙されている)利用者は、
 (サイト内ですぐにメッセージを送れるように)購入したポイントが
 直ちにサイト内で反映される方が便利です
 (これは騙す側のサイト業者にとっても、違法な収益を24時間
 稼ぐことができるので有利です)。
 したがって、サクラサイト業者は、決済したことがすぐに反映される
 クレジットカードや電子マネーを利用できるように準備しているのです。

■クレジットカードの決済の仕組み

 経産省の調査によると、クレジットカードは、現在3億枚以上が流通しており、
 社会に溢れていると言っても過言ではありません。
 しかし、その決済の効果は、非常に複雑な経緯をたどります。

 クレジットカード取引は、元々は、
 カード会社、加盟店、利用者
 の三者間の契約関係だったのですが(「オンアス取引」と言います)、
 現在は、国際ブランド(VISAやMaster Cardなど)を通じて、
 加盟店、アクワイアラー(加盟店側カード会社)、
 国際ブランド、イシュアー(利用者側カード会社)、利用者、
 という5者間の契約関係がほとんどです
 (「ノンオンアス取引」と言います)。

 みなさんがクレジットカードで決済する場面を思い起こしてください。
 カードを発行した会社の店舗でクレジットカードを利用することは多くなく、
 VISAやMaster Cardの加盟店になっているお店で、
 VISAやMaster Cardのクレジットカードを利用して
 決済しているのではないでしょうか。

 この場合、クレジットカードを利用すると、
 法的にはこれら5者間で債権譲渡が行われるか立替払が
 行われているという関係になります。
 しかし、この点を緻密に分析している文献は少なく、
 現在の割賦販売法も、日常多く利用されているノンオンアス取引ではなく、
 オンアス取引が前提で規定されています。

 さて、サクラサイト業者は、クレジットカードの加盟店審査に通らないため、
 そのままではクレジットカード決済を利用することができません
 (割賦販売法はカード会社に加盟店審査を行うよう規制しています)。

 そこで「決済代行業者」を挟み、
 クレジットカードを利用できるようにしています。
 決済代行業者とは、まさに「決済」を「代行」するための会社で、
 「包括加盟店」として、複数の販売業者等を取り次ぐ形で
 アクワイアラーとの間で加盟店契約を締結する事業者です。

 決済代行業者が介在すると、
 直接では加盟店になれなかったサクラサイト業者が、
 結果的に、クレジットカード決済を利用できるようになってしまいます。
 クレジットカード取引にサクラサイト業者が参入できるようになったことが、
 サクラサイト被害を増大させた要因の一つと言えるでしょう。

                         (2014.11.17)

■クレジットカードの決済の仕組み2

 具体的に次のような取引を考えてみましょう。

 私は、東海道新幹線をよく利用します。
 利用時は毎回、EX-IC(モバイルスイカ)を使います。
 EX-ICはエクスプレスカードというクレジットカード(発行会社は
 株式会社セディナ)と一体になっているカードです
 (下図のカード。JR東海のHPより)。

画像(320x64)・拡大画像(545x109)

 
 私がエクスプレスカードを用いて新幹線に乗車すると、
 利用者=私、加盟店=JR東海、カード会社=株式会社セディナ、
 との間で決済が行われます。
 これが、オンアス取引です。
 利用者、加盟店、カード会社の三者間で取引が行われるからです。

 しかし、このエクスプレスカードは、VISAやMaster Cardなどの
 国際ブランドが付帯しており、エクスプレスカードを用いて、
 JR東海以外のその他のお店で買い物をすることもできます。
 例えば、私がこのカードを用いて楽天市場で買い物をした場合、
 利用者=私、
 顧客側カード会社(イシュアー)=株式会社セディナ、
 国際ブランド=VISAやMaster Card、
 加盟店側カード会社(アクワイアラー)=不明、
 加盟店=楽天市場のお店、
 という5者間の契約となります(下図参照)。
 これがノンオンアス取引です。

画像(320x173)・拡大画像(620x336)

 オンアス取引は、ノンオンアス取引におけるイシュアーと
 アクワイアラーが同じ会社の取引だということが分かります。
 オンアス取引では、国際ブランドを経由する必要がありません。
 国際ブランドは、国際ブランドを経由する決済の場合に手数料を
 徴収していると言われており、カードを利用すると値段が高くなる
 (もしくは割引が受けられない)お店があるのは、
 この手数料分を価格に転嫁しているからだと考えられます。

                         (2014.12.16)

■現金以外の決済手段に規制が必要な理由

 サクラサイト事件では、多様な決済手段が用意されていることが、
 被害を拡大させている一因です。
 もっとも、多様な決済手段そのものは、
 消費者にとって有益であり、生活を豊かにしてくれるものです。
 
 例えば、ここ数年で爆発的に決済件数が伸びた電子マネーを考えてみましょう。

 Suicaの発行枚数は4000万枚を超えており、
 首都圏では「切符を買って」電車に乗る人はむしろ少数派です。
 なぜ利用者が増えたのでしょうか。
 それは、Suicaが便利だからです。
 「現金を出さなくてもよい」という手軽さや、
 「券売機に並ばなくてもよい」という時間短縮の効果が、
 消費者に受け入れられているのです。

 クレジットカードはどうでしょうか。
 こちらは手元に現金がなくても決済ができるところに利便性があります。
 
 その他に、宅配便の収納代行、コンビニ収納代行、
 インターネットでパスワードを入力する方式の電子マネーなどが、
 2者間の現金以外の決済方法として使用されています。

 このように、多様な決済手段は、現金という「物」を持ち出すことの
 不便さを解消するために考案されたものなのです。

 しかし、こうした決済手段は、あくまで民間企業が考案したものであり、
 国が発行・管理している「現金(通貨)」とはまるで異質なものです。
 そのため、これらの決済方法は
 「資金決済に関する法律(資金決済法)」によって発行要件を定め、
 発行企業に登録を要求するなどの規制が行われています。

 また、現金以外の決済手段は、一度トラブルが生ずると
 現金で決済する場合よりも複雑な紛争処理が必要となります。
 売買契約において現金を使用して決済した場合は、
 契約当事者は売主と買主という2者しかいませんが、
 現金以外の決済手段を使用すれば、
 資金の流れは当該発行体を経由するため、
 契約当事者が3者以上となります。
 クレジットカード取引で決済代行会社が使用されていれば、
 契約当事者は6者となる場合もあります。

 契約当事者が増えれば増えるほど、
 消費者にとっては資金の流れがつかみにくくなり、
 かつ、それぞれの当事者と関係が希薄になっていきます。
 トラブルの相手方がどこにいるのかも、わからない場合があります。

 悪質業者は、この点を悪用し、
 現金以外の決済手段を敢えて使用している場合があります。

 現在、クレジットカードを規制している「割賦販売法」は、
 規制強化の改正作業を行っています。
 しかし、「資金決済法」については、現行の割賦販売法よりも規制が緩く、
 決済手段の悪用を防止できているとは言えません。

 サクラサイト事件のような悪質商法を撲滅するためには、
 こういった新たな決済手段の悪用を防ぐような
 強い規制が必要と思われます。
                         (2015.2.13)

   

安愚楽牧場事件(岩城)

■安愚楽牧場とは?

 安愚楽(あぐら)牧場は、昭和56年12月18日に
 「和牛の繁殖飼育事業」等の事業を目的として、
 「有限会社安愚楽共済牧場」として設立された会社です。
 安愚楽牧場は、支払不能に陥ったとして、
 平成23年8月9日、東京地方裁判所に民事再生手続の開始を
 申し立てて実質破綻しました。
 被害者数は約7万3000人、被害額は4200億円超という
 わが国史上最大の消費者事件です。
 現在、安愚楽牧場の代表取締役であった三ヶ尻久美子氏や
 その他の取締役も破産手続中であり、
 刑事事件としても立件されています。

■安愚楽牧場が行っていた商法〜和牛預託商法〜

 安愚楽牧場は、「和牛預託商法」を行っていました。
 和牛預託商法とは、概ね次のとおりの事業です。

 投資者(出資者)が、業者より、肉用和牛の子牛を購入する。
  ↓
 購入した子牛は、投資者より業者に預託し、飼育を委託する。
  ↓
 牛が成長したところで、業者は、投資者より牛を買い戻す。
  ↓
 業者は、牛を市場で売却する。
  ↓
 投資者の子牛の購入価額と、売却価格から育成経費を引いた分との
 差が利益となって、投資者に還元される。

 また、子牛でなく、子牛を産む繁殖牛について、
 同様に売買・飼育預託を組み合わせる場合もあります。
 安愚楽牧場は、繁殖牛について投資対象としていました。

■和牛預託商法の問題点

 和牛預託商法は、一見、リスクのない投資商品に見えるのですが、
 ビジネスモデルとして無理がありました。

 まず、牛が必ず高価格で販売できるとは限りません。
 高価格で販売するには高い飼育技術が必要で、低品質の成牛しか
 飼育できないことがあります。
 もし高品質の成牛の飼育に成功したとしても、
 売却時の市場価格が、当初の想定を下回ることもあります。

 また、飼育期間を通じて、飼料代がかかりますが、その飼料の
 市場価格は一定ではありません。
 繁殖牛に投資する場合も、
 その牛が毎年必ず子牛を産むとは限りません。
 出産しても、子牛が育たずに死亡する場合があります。

 結局、契約時の想定通りに利潤が出ることは、本来ほとんどないと
 言われており、ビジネスモデルとしては無理があったのです。

 では、どうしてこのようなビジネスモデルがまかり通ってしまったのでしょうか。

 その原因としては、投資者が牛を購入したとしても、
 投資者は実際の牛の肥育に関わらないため、自分の牛の特定を
 することが通常できないことや、
 牛の特定ができたとしても、それが他者と重複(共有)している
 ことの確認ができないことなどにあります。
 さらに言えば、投資者は自分が購入した牛が存在するのか
 どうかも確かめる術がありません。

 つまり、事業者は、契約どおりの牛を揃えることなく、契約者より
 お金だけを集め、これをそのまま他の契約者への配当金に回すことで、
 外形上和牛飼育が成功しているように見せかけることが
 容易に可能だったのです。

■安愚楽牧場の実態

 安愚楽牧場は、平成7年ころから契約の対象となる繁殖牛が
 いるように見せかけていました。
 消費者庁が安愚楽牧場破綻後に調査をした結果によれば、
 少なくとも平成19年以降は、本来いるべき頭数の半分ぐらい
 しかいませんでした。
 牛の頭数が少ないのに、オーナーが投資対象として出資できたのは、
 安愚楽牧場が架空の牛番号を付けていたからです。
 オーナーが現実の牛を確認できないことをいいことに、
 安愚楽牧場は詐欺的取引を行っていました。

 和牛商法は、構造的に毎年確実に利益を出すことができない商法です。
 安愚楽牧場は、税務申告上の損益計算書には赤字を計上していながら、
 オーナー向けの事業報告の損益計算書では毎年利益が出ていると表示していました。

 さらに、安愚楽牧場は、オーナーからの「出資」を、会計上、
 「売上」として計上していました。
 安愚楽牧場の契約では、オーナーの牛を必ず買い戻すことになって
 いましたので、会計上は、売上ではなく負債(又は預り金)として
 処理しなければなりませんでした。
 安愚楽牧場の収入に占めるオーナーからの出資の割合は70%にも
 及んでいたので、安愚楽牧場の本当の売上は、オーナー向けに
 公表していた売上の3分の1もなかったことになります。

 例えば、平成21年7月に農水省が安愚楽牧場から報告させた内容に
 よれば、平成21年3月当時にオーナーに返金しなければならなかった
 残高は、2880億円にも上っていました。
 これが負債として計上されていれば、安愚楽牧場が2800億円という
 大幅な債務超過状態で到底存続し得ない状態であることは明らかでした。

 では、どうして安愚楽牧場は事業を存続できたのでしょうか。

 安愚楽牧場は、既存のオーナーへの利子や返還金について、
 新たに獲得した新規オーナーの出資金を当てていました。
 安愚楽牧場は毎年内容虚偽の計算書類を作り、大幅な債務超過で
 ある実態を隠し続けたため、一般消費者たるオーナーは
 安愚楽牧場の事業は順調であると思い、安心して新たに契約に
 至ってしまう人が増え続けました。
 これによって安愚楽牧場が破綻するまで被害が拡大し続けたのです。

■国の責任追及

 安愚楽牧場被害対策東海弁護団は、平成26年5月30日、
 国を被告として、安愚楽牧場被害に関する国家賠償責任を追及する
 訴訟を名古屋地方裁判所に提起しました。
 また、同日、他の地域の安愚楽牧場被害対策弁護団も各地の
 地方裁判所に提訴しています。
 当地の提訴者数は200名超です。

 これまで述べてきたように、和牛預託商法は構造的に破綻が必然の
 ビジネスモデルでした。安愚楽牧場は、平成11年以降、税務申告において
 赤字申告を行っていましたが、その後も安愚楽牧場がオーナーを
 拡大すればするほど、牛を買戻すための金額が増大するため、
 オーナーの募集をひたすら続けなければならない状況だったのです。

 和牛預託商法は昭和の終わりころに登場した商法ですが、
 16あった業者が次々と破綻していきました。
 平成19年ころには業者の数は、安愚楽牧場を含めてわずか2社に
 なっており、農水省は、そのうちの1社である「ふるさと牧場」に対し、
 同年12月19日に立入検査を行いました。
 その検査で、「実際には牛の飼養が行われていなかったにもかかわらず、
 その旨を顧客に対して故意に告げず」勧誘していたこと、
 「他の顧客からの預託金(契約金)をもって支払に充てていたにも
 かかわらず、その旨を顧客に対して故意に告げず」契約の
 締結・更新の勧誘していたこと
 が判明したのです。

 まさに、今回の安愚楽牧場と同じことがふるさと牧場でも行われていました。

 農水省が「ふるさと牧場」に対し立入検査を行ったのは、
 「預託法」による規制があるためです。
 和牛預託商法を規制する預託法は、昭和60年代に発生し大きな
 社会問題となった豊田商事問題を中心としたいわゆる
 「現物まがい商法(現物がないのにあるように装って販売すること)」
 による消費者被害を防止する目的で制定されたものですが、
 和牛預託商法の会社が次々と破綻したために、農水省自ら、
 平成9年に和牛預託商法を取り締まるように法律を改正するよう
 働きかけた経緯があります。

 つまり、農水省は、和牛預託商法が容易に「現物まがい商法」に
 転化してしまうことをよく知っていました。
 そこで、遅くとも平成19年12月19日の時点で、同種営業を
 行う安愚楽牧場に関しても、販売している牛は本当に実在しているのか、
 配当に見合う利益が本当に上がっているのかについて、預託法に
 基づく立入検査等を適正に実施し、農水省に与えられた規制権限を
 適正に行使しなければならなかったのです。

 国に対する国家賠償請求訴訟は、被害者の方の損害を安愚楽牧場に
 代わり填補すべきであるという訴訟ではありません。
 和牛預託商法が容易に消費者を騙しうるビジネスモデルであるため、
 預託法は、国に対し、消費者を保護するための規制権限(立入検査や
 業務停止命令)を唯一付与しています。
 一方、消費者は和牛預託商法を行う会社が適正な事業を行って
 いるかを確認する術は全くありません。
 従って、多くの和牛預託商法を行う企業が破綻する中、
 国が適正に預託法の規制権限を行使していれば、
 安愚楽牧場の被害の拡大を防げたはずなのです。

 今回の訴訟は、国の規制権限の不行使の責任を問う訴訟です。

   

B型肝炎訴訟(岩城)

■B型肝炎とは

 B型肝炎は、「B型肝炎ウイルス」を原因とするウイルス性肝疾患の
 ことを言います。
 ウイルス性肝炎は、ウイルスが肝臓に宿ることによって肝臓が
 炎症を起こしてしまう肝疾患のことで、日本では、
 肝疾患の約9割がウイルスが原因です。
 ウイルスにはいくつかのタイプがありますが、
 日本ではA型、B型、C型がほとんどです。
 私の所属する「全国B型肝炎訴訟名古屋弁護団」では、
 このウイルス性肝疾患のうち、
 B型肝炎ウイルスを原因とする患者さんの個別救済と、
 全てのウイルス性肝炎患者に対する医療費の助成等を求めて活動しています。

■肝臓の機能

 肝臓は、人体の臓器の中で最大の臓器で、
 「化学工場」に例えられます。
 代謝、解毒、貯蔵など、非常に重要な役割を担っており、
 その機能は数百あると言われています。
 また、再生能力が高いため、肝臓の一部が損傷しても元に戻ります。
 したがって、元に戻れないくらい損傷するまで、自覚症状なく
 病状が進行してしまいます。
 これが、肝臓が「沈黙の臓器」と呼ばれる所以です。

■B型肝炎の病態

 B型肝炎ウイルスは、血液感染や性行為による感染が知られていますが、
 成人後に感染しても、多くは一過性の感染(急性肝炎)で済む場合が多く、
 きちんと医療機関を受診すれば治癒します。
 しかし、幼少期に何らかの形でB型肝炎ウイルスに感染した場合は、
 免疫機能が未熟なため、身体がウイルスを駆逐できず、肝臓内にウイルスが
 常駐する状態(「持続感染」と言います)になります。
 B型肝炎ウイルスに持続感染した人の約90%は、病状が進行することなく
 そのまま生活できますが(無症候性キャリア)、
 残りの人は慢性肝炎を発症し(B型慢性肝炎)、慢性肝炎を治療せずに
 放っておくと、肝硬変、肝臓がんへと病態が進行します。
 重度の肝硬変や肝臓がんは、死亡する危険の高い非常に恐ろしい病気です。
 B型肝炎の厄介な点は、肝硬変や肝臓がんになるまで
 (=その程度に肝臓が損傷するまで)
 自覚症状が現れない人もいるところです。


■B型肝炎の患者数

 日本のB型肝炎の患者さんは、140万人ほどいる(およそ100人に1人)と
 推計されています。そのうち、40万人ほど(およそ300人に1人)が
 集団予防接種により感染したと推計されています。

■どうして国が責任を負うのか

 予防接種によってB型肝炎に罹患したと証明できる方は、
 訴訟を提起することによって、
 個別救済(和解金の受領)を求めることができます。
 どうして国が個人の病気についてお金を支払うのでしょうか。
 それは、
 (1)国が強制的に集団予防接種を受けさせていたこと、
 (2)集団予防接種の方法が世界的な水準とは異なりずさんなものであったこと、
 (3)集団予防接種によってB型肝炎に持続感染してしまうこと、
 これらの理由があるからです。

■(1)国が強制的に集団予防接種を受けさせていたこと

 昭和23年に予防接種法が施行され、
 国民は集団予防接種を受けなければならなくなりました。
 この集団予防接種は、ジフテリア、百日咳、日本脳炎などの病気の予防接種で、
 多くは幼少期(生後〜小学生)に受けるものです。
 これらの集団予防接種は、予防医学の観点からは非常に有効なもので、
 集団予防接種そのものが悪いわけではありません。
 私たちが健康なのは、これらの予防接種を受けたおかげ
 とも言えるかもしれません。

■(2)集団予防接種の方法がずさんだったこと

 しかしながら、国が行っていた集団予防接種の方法は、
 当時の世界的な水準と比べてずさんなものでした。
 昭和23年当時、集団予防接種を行う際に注射針や注射筒を連続使用すると、
 B型肝炎ウイルスなど血液感染する病気が伝染ってしまうことが
 既に知られていました。
 イギリスやドイツなどでは戦後まもなく感染防止のため
 注射器の滅菌に関するガイドラインが存在していましたし、
 昭和28年にはWHOがウイルス性肝炎感染予防のために、
 注射針・注射筒の連続使用をやめるよう勧告しています。
 それにもかかわらず、わが国では、
 昭和40年代半ばまで針の連続使用の割合が30%を超え、
 「煩雑だ」との認識から注射筒の取り換えを行わず、
 国は危険性を認識しながら漫然と放置したのです。

■(3)集団予防接種によってB型肝炎に持続感染してしまうこと

 B型肝炎ウイルスの感染力が強いときには、数万倍に薄めた血液が
 体内に入っただけでも感染すると言われています。
 また、B型肝炎ウイルスは、
 幼少期(0〜7歳)に感染してしまうと、
 免疫機能が不十分なため、身体がB型肝炎ウイルスを駆逐できず、
 その肝臓にウイルスが住みついてしまいます。
 したがって、幼少期に集団予防接種を受け、注射針や注射筒を使い回すと、
 針に付着した僅かな血液や筒の中に入ってしまった僅かな血液
 (注射針を抜く際にほんの僅かですが注射筒に血液が逆流します)によって、
 B型肝炎ウイルスに感染してしまう危険があるのです。

■誰もが感染している危険があります

 国のずさんな予防接種管理は昭和63年まで続きました。
 したがって、昭和63年までに生まれた方は、
 ほとんど全ての方が予防接種を受けている関係上、
 B型肝炎ウイルスに感染している可能性があります。
 そして、B型肝炎に感染していても、多くの場合は自覚症状がありません。
 仮に感染していた場合、
 自覚症状がなくても肝硬変や肝臓がんなどの重篤な病態に
 進行する危険があるので、
 自分が感染しているかどうかを知っておく必要があります。
 病院で血液検査をした際や献血の際には、
 B型肝炎ウイルスに感染しているかどうかの検査も必ず行われますが、
 そのような機会がなかった方は、一度血液検査を受けることをお勧めします。
 保健所などで無料で受けることができます。

   

法律相談の前に知っておきたいこと(森亮爾)

<その9:医療過誤>

相談:私は、A病院で診療を受けていたのですが、
   ある診療行為が原因で身体に障害が残ってしまいました。
   病院に対し損害賠償請求をしたいと考えていますが、
   今後、どのように進めていったらよいでしょうか。

回答:医療過誤事件は、事件を進めていくにあたって、医学という
   専門的知見を要する事件ですので、その他の事件にもまして
   弁護士に委任することなく事件を進めていくことは困難であり、
   また、法律相談という当初の段階から、事件の見通しを
   立てることも困難です。

   そこで、弁護士は、
   まず、相手方に対し損害賠償請求を行うことではなく、
   事件の見通しを立てるための調査の委任を受けることになります。
   調査の委任を受けた弁護士は、可能であれば、医療機関が
   保管している医療記録(カルテ、看護記録、検査画像等)の
   証拠保全を行います。
   証拠保全を行うことなく、医療記録の写しの交付を
   医療機関に求めると、残念ながら、自己の責任を免れるため
   医療記録の内容を改ざんしてしまう医療機関が存在することから、
   証拠保全という方法を採るのです。
   ただし、証拠保全を行うためには、医師が説明を拒んだとか、
   前後矛盾する説明を行った等証拠保全を行わなければ
   医療記録が改ざん、廃棄されてしまうおそれがあることを
   基礎づける事実の存在が必要です。

   実際の証拠保全手続をわかりやすく紹介すると、例えば、
   証拠保全の期日の正午に
   裁判所の執行官が証拠保全を行う旨の決定書を医療機関に届け、
   その日の午後2時に
   裁判官と弁護士が医療機関に赴き、医療記録のコピーを入手します。
   決定書を届けた2時間後にコピーを入手し始めるのですから、
   時間的に改ざんを行う余裕がないわけです。

   弁護士は、裁判所の記録となった医療記録をさらに謄写し、
   それを時間をかけて検討します。
   また、医学部図書館等で関係する医学文献を入手・検討します。
   そのうえで、患者側に立ってアドバイスをしてくれる
   協力医に医療記録を見てもらい、
   医師に過失があるか、現在の望ましくない結果が医師の過失行為に
   よるものかについてアドバイスを受け、
   弁護士の法律学的知見も交えて、事件の見通しを立てるのです。

   最後に、弁護士は、事件の見通しについて調査した結果を、
   調査を委任した依頼者の方に説明し、
   損害賠償請求を行うべきと考えられる場合には、その時点で、
   あらためて損害賠償請求事件の委任を受けることになるのです。

                         (2015.8.24)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

<その8:遺言>

相談:私は、不動産、預貯金、株式・国債・投資信託などの資産を持っていますが、
   将来私が亡くなったときのために、遺言書を作っておこうと考えています。
   遺言書の種類として、自筆証書遺言と公正証書遺言などがあると
   聞いたことがありますが、どちらの方法がお勧めでしょうか。

回答:それまでは仲の良かった家族が、
   そのうちのどなたかが資産を残して亡くなった後、
   その分け方をめぐって仲が悪くなってしまうということは、
   残念ながら、世間において、ときどき見られることです。

   いつまでも健康で生きていられることに越したことはありませんが、
   人は限りある存在であり、上記のようなことが起こらないよう、
   また、そのようなことが起こらないとしても、残された家族が
   遺産の分け方を話し合わなければならないということ自体負担と
   考えられますので、遺言書を作っておくことは、
   賢い選択であると考えます。

   遺言書の種類としては、自筆証書遺言や公正証書遺言などがありますが、
   私(=弁護士森亮爾)は、公証人の手数料がかかったとしても、
   絶対に公正証書遺言の方をお勧めします。

   自筆証書遺言は、
   遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、
   これに印を押さなければならないとされており(民法968条1項)、
   パソコン入力後プリンターで印刷した遺言書は、無効となります。
   また、「平成27年1月」とだけ記載された遺言書も、
   日付の記載が不完全であり、無効となってしまいます
   (最高裁判所昭和52年11月29日判決)。

   また、自筆証書遺言における加除その他の変更は、
   遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して
   特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、
   その効力を生じないとされており(民法968条2項)、
   変更の方法も厳格に決められていて、
   それを間違えてしまう危険があります。

   さらに、自筆証書遺言の場合は、プロが作成に関与することが
   少ないため、遺言の内容がはっきりせず、遺言の解釈をめぐって
   争いとなることが少なくありません。

   その他、紛失や、相続開始後の利害関係人による隠匿など
   といった難点が指摘されています。

   これに対し、公正証書遺言は、
   公証役場で執務する公証人という公務員が作成する公文書であり、
   遺言が無効となってしまうことは、まずなく、
   原本は公証人が保管するため、紛失や隠匿の問題も生じません。

   ただし、公正証書遺言の場合、
   証人2人以上の立ち会いが必要であり(民法969条1号)、
   遺言をしたことを秘密にしたくても、証人には知られてしまいます。
   なお、
   (1)未成年者
   (2)推定相続人(仮に遺言時に相続が開始したとしたら第1順位で相続人となるもの)、
     受遺者(遺贈によって利益を受ける者)、
     これらの者の配偶者及び直系血族など
   は、証人になれません(民法974条)。

   当事務所では、遺言書の文案の作成、公証役場との連絡、
   証人としての公証役場への出頭も行っており、
   遺言をしたことの秘密が守られます。

                         (2014.12.5)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

<その7:交通事故5>

相談:私は、ある会社に勤める営業マンですが、
   先日、会社の自動車を運転してお客さんのところへ赴く途中、
   前方をよく見ていなかったことにより、赤信号で停止していた
   自動車に後ろから追突してしまいました。
   事故の相手方の損害については、会社が入っていた損害保険より
   支払われましたが、車両保険に入っていなかったことから、
   会社は、私が運転していた自動車の損害の全額を私に請求しています。
   支払わなければならないのでしょうか。

回答:このような問題は、交通事故に限ったことではなく、
   企業の従業員が、その過失により企業に損害を与えた場合一般に
   あてはまることであることを知っておくことが重要です。

   それは、どのようなことでしょうか。

   最高裁判所昭和51年7月8日判決は、次のとおり述べています。

   「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、
    直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに
    基づき損害を被った場合には、使用者は、
    その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、
    労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防
    若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の
    事情に照らし、損害の公平な分担という見地から
    信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し
    右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと
    解すべきである。」

   企業は、従業員を損害の発生する危険のある業務に従事させ、
   得られる利益を拡大しているのですから、
   従業員の過失によって企業に損害が発生した場合には、
   その損害の一定部分は企業が負担すべきです。

   また、どれだけの部分を企業が負担し従業員が負担するかは、
   諸事情を考慮し、どのように負担させることが公平か、
   によるべきでしょう。

   ご相談の事例は、通常の業務における前方不注視という
   軽過失によるもので、会社は車両保険に加入して危険を
   分散していなかったというのですから、
   他の事情にもよりますが、会社は損害の大部分を負担すべきでしょう。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

<その6:交通事故4>

相談:私は、これまで、自動車に衝突されたことによる傷害の治療を
   受けてきましたが、医師から「そろそろ症状固定です。」と
   言われています。
   衝突した自動車が入っている任意保険会社からは、
   「後遺障害の認定を受けるのであれば、後遺障害診断書の書式を送るので、
   医師に作成してもらい、こちらに送って欲しい。」と
   言われています。
   後遺障害の認定とは、どのようなことでしょうか。
   また、認定に納得できない場合は、どうすればよいのでしょうか。

回答:それ以上傷害の治療を継続しても、医学的効果が期待できない場合、
   このことを「症状固定」といい、また、
   症状が固定したときに残った障害のことを「後遺症」または
   「後遺障害」といいます。

   後遺障害による損害とは、症状固定までの損害である治療費、
   休業損害、入通院慰謝料(傷害慰謝料)等とは別の損害で、
   逸失利益、後遺障害慰謝料等として算定されます。

   後遺障害の等級及び種類は、政令である自動車損害賠償保障法施行令
   (以下、「施行令」といいます。)に、
   障害の程度が最も重い1級から14級まで定められています。

   例えば、
   1 施行令別表第1の第1級第1号は、
    「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、
    常に介護を要するもの」であり、
    労働能力喪失率は100%、
   
   2 施行令別表第2の第10級第11号は、
    「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」
    であり、労働能力喪失率は27%、

   といったようにです。

   後遺障害の等級の認定は、保険会社を通じて提出された後遺障害診断書、
   その他、追加で提出を求められることのあるレントゲン写真、
   MRI写真等の検査写真に基づき、損害保険料率算出団体に関する
   法律に基づく法人である損害保険料率算出機構で行われます。

   その後、等級認定の結果及びその理由は、
   保険会社によって、被害者に通知されます。

   等級認定に不服がある場合は、保険会社に対し異議申立を行って、
   損害保険料率算出機構内にある自賠責保険審査会で再審査してもらうか、
   民事訴訟を裁判所に提起する方法しかありません。

   このうち、自賠責保険審査会は、
   審査の公平性・客観性を確保するため、
   日本弁護士連合会が推薦する弁護士、専門医、交通法学者、
   学識経験者等の外部の専門家が参加しています。

   また、民事訴訟を裁判所に提起する方法では、主治医の意見書や
   裁判所の選任する鑑定人(医師)の鑑定書等を証拠として、
   損害保険料率算出機構が認定した等級よりも上位の等級の
   後遺障害を認定した判決の言い渡しを受け、それが確定
   (控訴等の上訴期間が経過したりすること。)する必要があります。

   後遺障害の等級は、後遺障害による損害である逸失利益や
   後遺障害慰謝料の金額にストレートに影響し、
   影響する金額も大きいことから、
   等級認定に不服がある場合には、弁護士に依頼することをお勧めします。

   また、弁護士でも、法律と医学が相克する賠償医学が関係することから、
   賠償医学に詳しい弁護士に依頼するとよいでしょう。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

<その5:交通事故3>

相談:私は、自動車に衝突されて負った傷害により、
   仕事をすることができなくなりました。
   衝突した自動車が入っている任意保険会社に、私が仕事をすることが
   できなくなった損害を請求したいと思いますが、
   どのようにして証明すればよいでしょうか。

回答:交通事故により被った傷害により仕事ができなくなった損害としては、
   休業損害と逸失利益の2種類があります。
   休業損害とは、傷害が治ゆ又は症状固定に至るまでの間に、
   仕事をすることができなかったことによる損害であり、
   逸失利益とは、傷害が症状固定に至り後遺症が残った場合に、
   事故前に得られていた収入が、その後遺症により、生涯にわたり
   減少したことによる損害です。
   ここでいう症状固定とは、それ以上傷害の治療を継続しても
   医学的効果が期待できないことをいいます。

   
   さて、休業損害の場合も、逸失利益の場合も、それを請求するためには、
   事故前に得られていた収入を証明する必要があります。

   給与所得者の場合は、「休業損害証明書」という書式に
   勤務先の証明をもらい、事故前年の源泉徴収票を添付して証明する
   という方法が一般的です。この「休業損害証明書」という書式は、
   任意保険会社に請求すれば送ってもらえます。

   また、「休業損害証明書」という書式は、賞与の減額に対応していないため、
   事故による休業により賞与が減額された場合には、別途
   「賞与減額証明書」という書式を任意保険会社に送ってもらい、
   勤務先に証明してもらう必要があります。

   
   なお、給与所得者の場合、事故による休業に年次有給休暇を利用した場合、
   その日数も休業損害の対象となります。

   
   また、事業所得者の場合は、税務署の受付印のある事故前年の
   確定申告書の控によって証明するという方法が一般的です。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

<その4:交通事故2>

相談:<その3:交通事故>では、被害者に過失がないケースについてのお話でした。
   それでは、被害者に過失があるケース(過失相殺がなされるケース)では、
   加害者が入っている任意保険の保険会社との間で、治療費の支払を
   めぐって発生する可能性のある問題は、どのようなものでしょうか。
   被害者に過失がないケースの場合と、どのような違いがありますか。

回答:加害者に過失があるのであれば、被害者に過失があったとしても、
   (1) 保険会社が、直接、医療機関に治療費を支払うこと、
   (2) 保険会社が治療費を支払うにあたって、あなたに対し、
    あなたの傷病についての情報を直接医療機関から入手することに
    ついての同意書に、署名押印を求めてくること、
   (3) 同意書への署名押印は原則として応じた方がよいこと、
   (4) あなたと保険会社とで症状固定時期について意見の食い違いが生じ、
    保険会社が治療費の支払を打ち切ってきた場合、
    あなたは自ら治療費を支払って治療を継続したうえで、
    後に裁判で症状固定時期があなたの考えるときまでであることを
    証明する必要があること、
    は、被害者に過失がないケースの場合と同じです。

   被害者に過失がないケースの場合と違いがあるのは、
   保険会社は、事故直後の治療費の支払いの開始から、あなたに対し、
   健康保険による治療を求めてくることです。
   
   同じ治療内容でも健康保険診療の方が自由診療よりも安価であること
   (多くの場合、健康保険診療は自由診療の5割安)、
   健康保険診療の場合、自己負担分以外は健康保険組合が負担して
   くれることは、<その3:交通事故>でお話ししました。

   被害者に過失がある場合、自由診療で治療を継続したとしたら、
   保険会社が、直接、医療機関に治療費の全額を支払ったとしたら、
   どのようなことになるでしょう。

   保険会社は、最後の示談交渉の際に、支払った治療費のうち被害者の
   過失割合分は、最終的には被害者が負担すべきものとして、
   慰謝料等治療費以外の損害から計算上控除して支払額を提示してくるでしょう。
   
   同じ治療内容で、自由診療の治療費が200万円
   (健康保険診療の治療費が100万円、また、健康保険の自己負担割合が3割)、
   その他の損害(慰謝料等)が200万円、
   被害者の過失割合が30%として、
   比較してみましょう。

   (1) 自由診療で治療した場合
      治療費 200万円
      その他の損害 200万円
      総損害額 400万円(200万円+200万円)
      過失相殺 ▲30%
      過失相殺後 280万円(400万円×(1−30%))
      既払い額(治療費) ▲200万円
      支払額 80万円(280万円−200万円)
 
   (2) 健康保険診療で治療した場合
      治療費 30万円(100万円×自己負担割合3割)
      その他の損害 200万円
      総損害額 230万円(30万円+200万円)
      過失相殺 ▲30%
      過失相殺後 161万円(230万円×(1−30%))
      既払い額(治療費) ▲30万円
      支払額 131万円(161万円−30万円)

   保険会社の求めに応じて、治療開始から健康保険診療とした方が、
   被害者にとって経済的に有利であることは明らかです。

   交通事故の場合でも、健康保険組合に「第三者による傷病届」を提出して、
   健康保険を使用して治療を受けることができることは、
   <その3:交通事故>でお話ししたとおりです。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

<その3:交通事故>

相談:先日、私は、歩行者用信号機の青色表示に従って横断歩道を歩行中、
   交差点を右折して横断歩道を通過しようとした
   自動車に衝突され、傷害を負いました。
   衝突した自動車は、ある保険会社の任意保険に入っています。
   治療費の請求については、どのような流れになりますか。
   また、治療費の支払をめぐって今後発生する可能性のある問題と
   しては、どのようなものがありますか。

回答:加害者が運転していた自動車が任意保険に入っている場合には、
   保険会社が、直接、病院等の医療機関に治療費を支払います。

   
   保険会社が治療費を支払うにあたって、保険会社は、あなたに対し、
   あなたの傷病についての情報を直接医療機関から入手することに
   ついての同意書に、あなたの署名押印を求めてくると思いますが、
   それは、保険会社が、かかった治療費が交通事故による傷病に対し
   必要かつ相当なものであるかをチェックするためのものですので、
   そこで保険会社とトラブルになるのは得策ではなく、
   スムーズに治療費を支払ってもらえるよう、
   同意書への署名押印は原則として応じた方がよいと思います。

   
   問題は、治療費が支払われるのは、症状固定時期、すなわち、
   それ以上治療を継続しても医学的効果が期待できない時期までで
   あることです。よくあるのは、あなたと保険会社とで症状固定時期に
   ついて意見の食い違いが生じ、保険会社が医療機関に対する
   治療費の支払を打ち切ってくることです。

   このような場合、あなたは、自ら治療費を支払って治療を継続
   したうえで、後に裁判で症状固定時期があなたの考えるときまでで
   あることを証明する必要があるでしょう。

   
   ここで大事なことは、自ら治療費を支払う場合、健康保険による
   治療に切り替えることです。
   保険会社が医療機関に治療費を支払う場合、自由診療と言って、
   健康保険による治療ではないことが通常です。
   自由診療と健康保険診療との大きな違いは、同じ治療内容でも
   健康保険診療の方が自由診療よりも安価であることです
   (多くの場合、健康保険診療は自由診療の5割安)。
   しかも、健康保険診療の場合、自己負担分以外は健康保険組合が
   負担してくれます(健康保険診療が自由診療の5割安で、
   健康保険診療の自己負担割合が3割の場合、
   「健康保険診療の自己負担分=自由診療の場合の治療費×50%×30%」
   という算式が成り立ちます。)。
   健康保険診療に切り替えなければ、もし、あなたが、自分の考える
   症状固定時期の証明に成功しなかった場合、あなたに、
   健康保険診療に切り替えたときよりも経済的損失を生じることになります。
   医療機関の中には、「交通事故の場合には、健康保険が使えない。」という
   説明を行うところが見受けられますが、それは誤りです。

  
   ただし、健康保険診療に切り替える場合、あなたは、
   健康保険組合に「第三者による傷病届」という書類を提出
   しなければなりません。
   健康保険組合が、「第三者による傷病届」が提出されたことにより、
   加害者の存在を認識し、健康保険組合負担分を加害者に対し
   求償請求できるようにするためです。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

<その2:消滅時効>

相談:売買代金請求権、貸金返還請求権、損害賠償請求権等の権利を
   有している者は、債務者に対して請求書を何度も郵送し続けて
   いるだけで、権利が消滅時効にかからないために十分な措置を
   していることになるのでしょうか。

回答:ときどき、実際の法律相談で、請求書を毎月送っているから
   時効にかからないと勘違いされている相談者の方をお見受けします。
   しかし、実際には、請求書を毎月送っているだけだと
   時効にかかってしまいます。
   
   例えば、「生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は
   商品の代価に係る債権」は、時効期間が2年ですので(民法173条1号)、
   上記のような勘違いは、時として権利を失うことにつながりかねません。

   
   確かに、民法147条は、時効は請求によって中断すると定めていますが、
   他方で、同法153条は、
   「催告は、6箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、
   民事調停法若しくは家事事件手続法による調停の申立て、破産手続参加、
   再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、
   時効の中断の効力を生じない。」と定めており、
   同法147条で時効の中断が生じる「請求」とは、裁判所を通じた
   手続のものに限られるからです。
   

   事例を設定してお話します。

   平成25年7月31日の経過をもって時効期間が満了する権利があるとします。

   同日までに債務者に到達するよう配達証明付き内容証明郵便で請求します。
   時効期間内に催告したことを証拠化するためです。
   ただ、実際には、債務者が不在のときに時効中断の効力が発生するか、
   いつ発生するかの問題がありますので、このような手法をとるのは、
   時効期間満了前までに確実に到達する場合でなければなりません。
   そして、到達したとき(平成25年7月31日とは限りません。)
   から6か月以内に裁判所に訴状を提出するのです。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

<その1:成年後見の申立>

相談:事故による脳損傷、認知症、統合失調症等の傷病によって、
   自分の財産を管理する精神上の能力を失った場合、
   周囲の親族は、どのようにすればよいでしょうか。

回答:世間では、このような場合、
   周囲の親族が本人の財産を事実上管理している場合も見受けられますが、
   法律上は、正当な権限はないことになります。

   加害者がいる事故の場合の損害賠償請求では有効な示談をすることが
   できませんし、財産を管理していない他の親族から
   不信に思われたりすることもあるようです。
   このような問題が生じることを考えると、
   成年後見の申立を行うことが望ましいと考えられます。

   民法第7条は、
   「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、
   家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、・・・(省略)・・・により、
   後見開始の審判をすることができる。」と定めています。

   また、民法第843条第1項は、
   「家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、
   職権で、成年後見人を選任する。」と定めています。
   
   さらに、民法第859条第1項は、
   「後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、
   その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。」と定めています。

   事実上財産を管理していた親族がそのまま
   成年後見人に選任されることもありますが、
   親族間で本人の財産の管理をめぐって対立がある場合には、
   家庭裁判所が、中立の第三者である弁護士等の専門家を
   成年後見人に選任する場合もあります。

   当事務所では、
   このような成年後見の申立書類の作成等のお手伝いをさせていただきます。
   お気軽にご相談ください。

   

不動産法マメ知識(森絵里)

Q 私たち夫婦は、息子が結婚して独立し、2人で私名義の自宅に
  住んでいます。
  最近、年をとったせいか庭の手入れが大変になり、2階建てで
  日々の階段の上り下りもしんどくなってきました。
  友達にその話をしたところ、自宅は人に貸して、
  どこか住みやすいマンションに引っ越したら?と言われました。
  たしかに、賃料が入ってくるのであれば、それもいい方法かなと
  思いますが、いずれは息子がこのうちで住むことになるかも
  しれませんので、人に貸すのであれば一時のことにしたいのです。
  何かよい方法はありますか?

A 定期借家契約という方法があります。
  以前は、借地、借家というと、借りる側が保護され、有利になるように
  法律が決められていました。平成11年に改正された借地借家法では、
  その点が改められ、大家の側の事情にもある程度配慮されるようになりました。

  その1つとして、定期借家契約という制度があります。
  以前の法律では、一旦家を貸してしまうと、明け渡しを求める
  正当な理由がない限り契約が更新されてしまい、返してもらうのに
  一苦労することがしばしばありました。
  これに対して、定期借家契約は、期間を定め、期間満了時には
  更新しないという条件で賃貸することができるのです。
  この契約では、貸す人は契約の際に、借りる人に対して、
  期間満了時に更新しないこと等を書面で説明しておかなければ
  なりません。また、期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に、
  期間満了時に契約が終了することを通知しなければなりません。
  借地借家法には手続きについての細かい規定が定められていますが、
  そういった手続きさえきちんとしておけば、返してもらいたい
  時期には確実に自宅を返してもらうことができますので、
  お尋ねのような場合には、有益な方法なのではないかと思います。

  いずれにしても、契約書等に不備があるといけませんので、
  弁護士に相談しながら進められるとよいと思います。

                         (2016.2)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

Q 私の両親は、借地上に父の名義で建物を建て、
  夫婦で長い間暮らしてきたのですが、数年前に母が亡くなり、
  父も先日亡くなって、自宅は空き家になってしまいました。
  周りの人から、建物を壊して立ち退かないといけない、と
  言われているのですが、壊そうと思うと相当費用がかかります。
  何かよい方法はないでしょうか?

A まず、お父様が亡くなられたことによって、お父様が地主と
  締結していた借地契約がどうなるかですが、
  終了するわけではなく、借主としての地位を
  相続人が受け継ぐことになります。

  契約が終了していない以上、
  相続人であるあなたが建物を壊す必要はなく、むしろ、
  お父様がされてきたように地代を支払わなければなりません。

  地代の支払いを継続している以上、借地契約の期間が満了したとしても、
  地主が契約を更新しない正当理由がなければ、契約は当然に
  更新されますし、仮に更新されない場合には、地主に対して、
  建物を買い取るよう請求する権利があります。

  逆に、地代の支払いを滞った場合、借地契約を解除された上に、
  建物の買い取りを請求することもできず、建物を壊して
  立ち退かないといけなくなる可能性もありますので、
  注意して下さい。

  なお、空き家で、今後も住む人がいないので、
  地主さんと借地契約を合意解約するという方法もあります。
  その場合、建物をどうするかについては、地主さんとよく話し合いをし、
  建物を壊さずにすめば一番よいですね。
  地主さんとの話し合いが不安だという場合には、弁護士にご相談ください。

                         (2015.7.28)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

Q 私は、ビルの5階を事務所として賃借していましたが、
  いわゆるピッキングの被害に遭い、室内に保管していた
  貴金属類や現金等をそっくり盗難されてしまいました。
  賃貸人は、最近近隣でピッキング被害が多いことを
  知っていたのですから、
  鍵を交換する等の被害防止策を講じるべきだったのであり、
  盗難にあった損害を賠償してもらいたいと思うのですが、
  無理でしょうか?

A 契約の内容次第ですが、おそらく無理でしょう。

  そもそも、賃貸借契約において、賃貸人が負うべき義務は、
  賃貸物件を使用・収益させる義務、
  使用収益に必要な修繕を行う義務等であって、
  あなたが言われるような、賃借人の所有財産を盗難等から保護する
  ことを内容とする管理義務が当然にあるわけではありません。
  契約の中で、そのような特約がある場合に、
  認められる余地があるという程度のことです。

  この点、賃貸人が、近隣でピッキング被害が多いことを
  知っていたからと言って、
  賃借人であるあなたとの間で、事務所の防犯について特段の
  合意もないのであれば、賃貸人は、
  いま使っている鍵を維持管理すること以上に、賃借人の
  盗難被害を防ぐべき義務は負っていないといえます。

  あなたとしては、ピッキング被害が多いことを知った時点で、
  事務所に高価な貴金属類は置かないとか、
  あなたのほうから賃貸人に対して鍵の交換を依頼するとか、
  自衛の手段をとるべきだったと思います。

  あなたと同様の事案で、多くの裁判例が賃貸人への請求を棄却しています。
  お気の毒ですが、あきらめて下さい。

                         (2015.5.26)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

Q 私は25年にわたり、隣地の他人の通路を通行しています。
  正確には、うちを含めて数軒の家の間にある通路(私有地)を、
  各家が公道に出るための通路として使用してきました。
  このような場合、私は土地を通行するという法的な権利を
  取得することができるのでしょうか?

A 土地を通行するという権利、
  つまり通行権を時効取得できる可能性はありますが
  (あくまで通行する権利であり、土地を取得できるわけではありません)、
  このようなケースで時効取得を認めていない判例もあります。

  通行権は、法律上「地役権」といい、地役権は、
  継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、
  時効によって取得することができるとされています(民法283条)。

  「継続的に行使」の意味合いについて、判例は、
  通路を必要とする土地の所有者が、自ら他人の土地の上に
  通路を開設しなければならないと解釈しています。

  この点、ある判例は
  「単に隣接する建物相互間の路地を両土地の所有者ないし
  借地権者各自が公道に出るための自然の通路として相互に事実上
  使用し公道の出口に木戸を設置したに過ぎない程度の利用状態」
  の場合には「継続性」を認められないとしていますが、
  他方、既存通路を通路所有者と通路を必要とする土地の所有者が
  共同して、各自の土地を提供するなどして拡張・整備し、
  20年以上にわたって土砂を入れたり、除草するなど既存通路と
  合わせて維持管理にあたっていたという事例で、
  拡幅された通路については、
  通路を必要とする土地の所有者が開設したと認めた判例もあります。

  このように、事案によって判断が分かれるところですので、
  一度弁護士に相談されることをおすすめします。

                         (2015.3.5)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

Q 建物を美容院に貸しているのですが、先日美容院の店主から、
  景気の影響で最近売り上げが激減しているので
  家賃を減額してほしいとの申し入れがありました。
  借主には賃料の減額請求をできる場合があると聞きましたが、
  この申し入れには応じる必要があるのでしょうか?

A 借地借家法32条は、建物の借賃が
  「土地もしくは建物に対する租税その他の負担の増減により」、
  「土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動により」、
  または「近傍同種の建物の借賃に比較して」不相当となったときは、
  当事者は、将来に向かって建物の借賃の増減を請求することができる、
  と定めています。

  今回の場合、「景気の影響で」売り上げが激減しているとのことですが、
  実際に、例えば物価指数が変動する等の経済事情の
  変動があるのかどうかが問題です。

  そうではなく、単に美容院の売り上げが減少しているだけだとすると、
  賃料の減額請求が認められるための要件は満たしていないことになります。

  したがって、物価の変動や租税額の変動、近隣の同種不動産の
  賃料などについて借主から何らかの具体的な主張がない以上、
  減額請求に応じる必要はないでしょう。

                         (2014.12.26)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

Q 私は賃貸マンションに住んでいます。
  1週間ほど前から台所で水が詰まるようになっていたのですが、
  仕事で忙しく、そのまま放置していたところ、
  大家さんから、下の階の部屋まで水が伝わり、服などが濡れてしまったと
  いう苦情が出ていることを知らされました。
  下の階の人から、服のクリーニング代等を請求されて
  いるのですが、私が全部支払わないといけないのでしょうか?

A 全部とはいいませんが、
  ある程度は負担せざるをえないのではないかと思います。

  あなたが普通に台所を使っていたのに水が詰まったのであれば、
  設備の老朽化等の原因が考えられます。
  その場合、大家さんにまずは責任があるでしょう。
  しかし、あなたがその状態を放置しなければ、
  下の階にそれほどの損害は発生しなかったかもしれません。

  水漏れの原因の割合を具体的に特定することは難しいでしょうが、
  大家さんとあなたと話し合って、
  責任を分担し合うのが円満な方法だろうと思います。

  どちらも保険に入っていれば話は早いですが、
  もしあなたが保険に入っていないのであれば、
  大家さんの加入している保険で対応してもらって、
  保険で出ない部分をあなたが支払うといった方法も考えられます。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

Q 私は、ビルの一室を借りて飲食店を営んでいますが、
  ビルに最近入った他の店舗の賃借人から、同じ大きさの店舗で
  うちより賃料が安いことを聞きました。
  周りのビルの賃料も軒並み下がってきているようです。
  私の借りている店舗の賃料を下げてもらうことはできるでしょうか?
  できるのであれば、どういう方法をとったらよいのでしょうか?

A 一定の期間、賃料を増額しないという特約がない場合で、
  現行賃料が経済事情の変動などによって不相当となっている場合には、
  将来に向かって賃料の減額を請求することができます。

  減額請求の方法ですが、まずは、賃貸人に対して
  賃料減額の意思表示をすることが必要です。
  のちに争いになった時のことを考えると、
  配達証明付き内容証明郵便で意思表示をしておくとよいでしょう。

  減額の意思表示に対して賃貸人が応じなかった場合には、
  調停を申し立てします。
  いきなり裁判をするのではなく、法律で、
  まず調停をすべきことになっています(調停前置主義)。

  調停でも話し合いがつかなかった場合には、裁判をすることになり、
  不動産鑑定士に適正な賃料額を鑑定してもらうことになります
  (通常、数十万円の費用がかかります)。
  結果、現行賃料が適正賃料よりも高額であると認められた場合には、
  減額の意思表示をした時点以後、支払いすぎてきた差額分に
  年一割の利息を付した金員が賃貸人から返還されることになります。

  賃借人のほうは、減額の意思表示をした後、適正と考える賃料を
  支払うことでもよいのですが、裁判で適正賃料がそれより高額で
  あった場合、差額に年1割の利息を付して支払わなければ
  ならなくなりますので、注意が必要です。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

Q 私は、マンションの一室を所有していますが、
  先日、マンションの管理組合の理事長が、
  総会決議をえないで、共用部分に衛星アンテナを設置する工事を行い、
  300万円もの費用を支払いました。
  これは、違法な支出であり、
  私たち各区分所有者の共有財産を侵害する行為ですので、
  区分所有者として損害賠償請求しようと思いますが、
  できるでしょうか?

A たしかに、管理組合の財産は、各区分所有者が支払った
  管理費や積立金によって成り立っているのですから、
  各区分所有者の財産権が侵害されたという考え方も
  なりたつとも思えます。

  しかし、同様のケースで、
  各区分所有者による損害賠償請求を認めていない判例が
  あります(東京地裁平成4年7月16日判決)。

  同判例は、
  管理組合は、法律的には「権利能力なき社団」という団体であり、
  管理組合の財産は、組合の総構成員の「総有」に属するものであって、
  構成員は当然にはこの財産に対し共有持分権又は分割請求権を
  有するものではない、として、
  区分所有者による不法行為に基づく損害賠償請求を棄却しています。

  したがって、管理組合の財産が侵害された場合には、
  管理組合自体が当事者となって損害賠償請求するほかないと思われます。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

Q 私は賃貸マンションに住んでいます。
  先日、排水管がつまってしまったため、
  大家に修理をお願いしたのですが、
  いくら言っても修理をしてくれません。
  大家には修繕義務があると聞いたので、直してくれないなら私も
  家賃を支払うのをやめようと思います。
  何か問題があるでしょうか?

A 確かに、賃貸人には、賃借人に対し、目的物を使用・収益させる義務があり、
  目的物の使用・収益に支障が生じた場合、賃貸人は、その支障を取り除くため、
  目的物を修繕する義務を負います(民法606条1項)。
  そのため、賃貸人が修繕義務を履行せず、そのために賃借人の
  使用・収益に支障が生じた場合には、修繕義務が履行されるまでの間、
  賃借人が賃料の支払を拒むことができる場合があります(民法533条)。

  しかしながら、修繕義務の不履行が賃借人の使用・収益に
  及ぼす障害の程度が一部にとどまる場合には、
  賃借人は、当然には賃料支払義務を免れるものではありません。
  すなわち、賃料の支払いを拒めるのは、使用・収益に支障を生じる
  範囲に限定され、使用・収益が部分的にできないのであれば、
  使用・収益できない部分の割合に応じて、賃料の支払いを
  拒絶できることがあるにすぎないのです
  (その場合でも、ただ拒絶するだけでは足らず、
  修繕義務の不履行を理由として賃料支払を拒絶する旨を
  明示しなければなりません)。

  判例上は、本件のような排水管の閉塞について、
  賃料の3割相当額の支払拒絶を認めているものがあります。

  また、大家に修繕義務があるといっても、
  賃料が低額に抑えられている場合には、
  修繕義務が否定される要素となる場合もあります。
  
  このように、事案によって、賃料の支払を拒絶できるケースかどうかは
  様々ですので、安易に賃料支払いをストップすることは、
  退去を請求されうるので、危険です。
  弁護士に相談して対応を検討することをおすすめします。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

Q 父が亡くなり(母は既に他界)、
  私と兄で遺産分割の話し合いをしなければなりません。
  遺産としては、AとBの2カ所の土地だけなのですが、
  AとBでは、土地の評価に大きな違いがあり、
  兄がAを取得するなら、私はBを取得した上、
  兄弟公平になるよう兄に差額を支払ってほしいと思っています。
  差額の計算は、どのようにすればよいのでしょうか?

A 遺産の評価の問題ですね。
  まず、評価の時期は、相続開始の時(お父様が亡くなった時)ではなく、
  遺産分割時とするのが一般的です。
  相続開始後、遺産分割がまとまるまでに相当時間がかかることもありますが、
  実際に分割協議が成立した時点の評価で考えるべきということです。
  次に、評価方法ですが、土地の場合、路線価や固定資産評価額、公示価格、
  基準地価と様々な評価方法があり、複雑です。

  
  この点、遺産分割は相続なのだから、相続税評価(路線価)で評価するものと
  考える人もいると思いますが、本来はそうではありません。
  相続税評価は、あくまで相続税算出の基礎となる価格にすぎません。

  
  遺産分割の場合には、まず、相続人間で評価の方法を合意できれば、
  どの方法をとってもかまいません。
  家庭裁判所で遺産分割調停を行う場合には、相続人間に争いがなければ
  固定資産税評価額で評価することも多いようです。

  
  そうは言っても、あなたのように、兄弟公平になるように差額を支払って
  ほしいと言う場合、できる限り多く差額を払ってもらえたほうがいいわけですから、
  いわゆる現在の時価(実勢価格)で評価するのが妥当でしょう。
  相続税評価は実勢価格の約8割、固定資産税評価額は実勢価格の約7割と言われています。

 
  また、時価(実勢価格)の評価にあたっては、不動産鑑定士に依頼して
  行う場合もありますが、それなりに費用もかかりますので、
  相続人間で合意できるのであれば、近隣の不動産業者数社に
  査定してもらうという方法も簡便でよいのではないかと思います。

  
  まずは、お兄さんと、評価の方法についてよく話し合ってみて下さい。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

Q 一人暮らしをしていた母が亡くなり、自宅が空き家にな-りました。
  一人っ子である私が家を相続しましたが、私自身は、
  結婚して夫と建てた家があり、特に住む必要がありません。
  ただ、将来息子が結婚して住むかもしれないので、それまでの間、
  誰かに貸しておきたいと思います。
  こういう場合、賃貸借契約をむすぶ際に注意することがありますか?

A 通常の建物賃貸借契約を締結するだけでは、将来息子さんが結婚して
  住みたいとなったときに、借りている人に出て行ってもらうのが
  難しくなる可能性があります。
  将来のことを思えば、「定期建物賃貸借契約」という契約を
  締結するほうが無難です。
  
  「定期建物賃貸借契約」とは、貸す期間を区切って、期間が終了すれば
  契約が更新しないという契約です。
  通常の賃貸借契約でも、貸す期間を区切っているのは同じですが、
  家主のほうから契約更新を拒絶するには正当な理由が必要であり
  (多くの場合、立退料の提供が必要となります)、
  正当な理由が認められない以上、基本的に契約は更新されてしまいます。
  この点、「定期建物賃貸借契約」であれば、正当理由の有無にかかわらず、
  基本的に期間が終われば契約は終了し、更新しないのです。
  
  このように、「定期建物賃貸借契約」は、通常の建物賃貸借契約に比べて
  借主に不利な条件を認める契約ですので、この契約を締結する前には、
  通常の賃貸借契約と異なり更新がないことについて、きちんと書面で
  説明しておかなければなりません。
  さらに、期間の終了する半年前から1年前の間に、期限が来たら
  契約が終了することを家主は通知しなければなりません。

  あなたの場合、息子さんの年齢を考えて数年間で期間を区切り、
  この「定期建物賃貸借契約」を締結して上記の手続きをきちんとすれば、
  期間の終了時にすみやかに借家人に出て行ってもらうことができます。
  なお、契約締結の際には、弁護士に相談して契約書を作成してもらうことをおすすめします。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

Q 私の父は、叔父が所有する土地の上に建物を建てて、家族で住んできました。
  父と叔父との間では、地代を支払う約束はなかったようです。
  このたび、父が亡くなり、私が建物を相続したのですが、
  叔父の土地を相続した叔父の長男から、建物を取り壊して
  出て行くように要求されています。
  この要求に従わないといけないのでしょうか?

A あなたのお父さんと叔父さんとの間では、無償(ただ)で土地を使ってもよい
  という約束、使用貸借契約があったものと認められます。
  
  民法上、使用貸借契約は、借主の死亡によって効力を失うと
  定められており(民法599条)、この規定を見る限り、
  土地の借主であるお父さんの死亡によって、土地の使用貸借契約は終了し、
  建物を相続したあなたは土地を使用する権利がないようにも思われます。

  しかし、お父さんと叔父さんとの間の土地使用貸借契約は、
  土地上の建物を使う必要がある限り続くことを予定しているのであって、
  お父さんの死亡という一事をもって建物を使う必要がなくなるわけではありません。
  このような場合には、土地建物の使用状況からして、いまだ使用貸借契約は
  終了しないと考える余地があります。

  東京地裁昭和56年3月12日判決は、このようなケースにおいて、
  「建物所有を目的とする土地の使用貸借においては、当該土地の
  使用収益の必要は一般に当該地上建物の使用収益の必要がある限り
  存続するものであり、通常の意思解釈としても借主本人の死亡により
  当然にその必要性が失われ契約の目的を遂げ終わるというものではない
  から・・・民法599条が当然に適用されるものではない」として、
  建物の相続人による土地の使用継続を認めています。
  

  したがって、あなたの場合も、叔父の長男からの要求には
  従わなくてよいと認められる可能性があります。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

Q 我が家が建っている土地は、何十年も前に父が、周り一帯の土地を
  所有している隣人から、一部土地を分筆してもらって購入した土地です。
  我が家の土地の周りには公道がなく、すべてその隣人の所有する土地に
  接しているので、公道に出るために、従前から隣人の所有地を通行してきました。
  先日、その隣人が亡くなり、相続人である息子さんから、
  過去の分も含めて通行料を払うよう要求されています。
  払わなければならないのでしょうか?

A あなたの家の土地のように、他人の土地に囲まれた土地を袋地(ふくろち)といいます。
  袋地は、そのままでは実際上利用しようがないので無価値ですが、
  それではあまりに不経済なので、袋地所有者には、
  他人の土地(囲繞地(いにょうち))を通ることが法律上認められています。
  しかし、法律が強制的に通行権を認めるのですから、
  隣地の迷惑も当然のことながら考えなくてはなりません。
  そのため、原則として、通行権は有償、つまり通行料を
  支払わなければならないことになっています。

  ですが、もともと一筆の土地だったものの一部を分筆して売買したり、
  共有物を分割したりした結果袋地が生じた場合には、事情が異なります。
  そのような場合には、当事者間では事前に袋地ができることは当然予想できた
  ことであるし、売買または分割の際に、実質的には一括払いの形で
  通行料を支払っていると考えられます。
  したがって、このような場合、通行権は例外的に無償とされています。
  
  あなたの家の場合、お父さんは、隣人の所有する土地の一部を分筆して
  もらって購入し、その結果、袋地となったというわけですから、
  上記の例外的な場合にあたり、通行料を支払う必要はありません。
  このことは、隣人が亡くなって息子さんが囲繞地を相続しても
  変わるものではありませんので、息子さんからの通行料要求は断ることができます。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

Q 家族で分譲マンションの一室に住んでいますが、
  マンションの住民の中に、専用庭内で野良猫にえさをやっている人がおり、
  最近マンションに寄りつく野良猫の数がすごく増えてきました。
  うちのマンションは、ペット飼育禁止なのですが、
  野良猫にえさをやっているだけでは、禁止に反することもなく、
  この人に対して文句を言うことはできないのでしょうか?

A 猫が増えて、どれほどの事態に至っているかが問題です。
  ペット飼育禁止に反しなくても、マンション区分所有者の共同の
  利益に反し、また、各住民の人格権を侵害したとして、
  えさやり行為の禁止と損害賠償を認めた判例があります。

  この判例の事案では、住民Aの専用庭で子猫が生まれたあと、
  Aが専用庭や自宅玄関前で猫のえさやりを行うようになり、
  少なくとも18匹程度の猫がえさをもらいに集まるようになっていました。
  野良猫が増えたことによって、至る所に猫が糞をし、
  専用庭に猫が飛び降り、通路に猫が多数いて住民は恐怖を感じ、
  不気味に感じるほどだったようです。
  また、猫の抜け毛が飛来するとか、猫が自動車の上に乗り、傷を付ける
  といったこともありました。

  裁判所は、住民らの訴えに対して、
  野良猫といっても、えさやり行為が飼育に当たる程度に達している猫に
  ついては、マンション規約のペット飼育禁止条項に反するし、
  至らない場合でも、少なくとも迷惑行為禁止条項に反する、
  さらには、上述のような住民への被害は住民の受忍限度を超え、
  住民らの人格権を侵害する等として、
  「被告は、マンション敷地及び建物内において猫にえさを与えては
  ならない。」と命令すると同時に、
  原告一人につき10万円前後の損害賠償を認めました。
  この判決は、裁判所が「地域猫活動」について丁寧に論じる等、
  裁判所の扱う事件の幅広さを感じさせる興味深いものです
  (東京地裁立川支部平成22年5月13日判決)。
  参考にしてみて下さい。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

Q 隣の家の庭に植えてある木の枝が、塀を越えて我が家の庭のほうにまで伸びてきています。
  以前に人に聞いた話では、隣の家の木の根っこが境界を越えて伸びてきたときには、
  勝手に切ってしまってもいいということなので、この木の枝も、
  切ってしまおうと思いますが、何か問題はありますか?

A 隣の人の承諾なく、木の枝を切ってしまうのは問題です。
  たしかに、根っこについては、「隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、
  その根を切り取ることができる」と民法233条2項に
  定められており、自ら切り取ることができます。
  これは、境界線を越えて入り込んだ根っこは、侵入を受けた土地の一部になったと
  解される等の理由から定められているものです。

  しかし、木の枝の場合には、民法は、
  「隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、
  その枝を切除させることができる」と定めるにとどまり(民法233条1項)、
  自ら竹木の枝を切除できるとはされていません。
  これは、根っこと違って、枝は土地の一部にはなりませんし、枝については隣地の所有者に
  植替えの機会を与えるべき等の理由から、取り扱いが異なるのです。
  
  この点、別荘地のヒマラヤ杉を隣地の旅館主が伐採したことについて、
  ヒマラヤ杉の所有者から損害賠償の請求がなされた裁判では、伐採した隣地旅館主は、
  民法233条1項に基づき自力救済として伐採したのだから許されると主張しましたが、
  判決は、枝の剪除にとどまらず杉そのものを伐採した行為は、そもそも本項によって
  許されるものではないとして損害賠償請求を認めました。
  
  あなたの場合は、まず、隣地の所有者に枝を切るように請求し、
  相手が請求に応じない場合には、枝の切り取りを求める裁判を起こして、
  最終的には隣地所有者の費用負担で、第三者に切り取らせるというのが一番確実な方法です。
  たかが木の枝のことで裁判までしたくないと思われるでしょうが、たとえば、
  切り取りを求める竹木が、高価な銘木であったり、あなたのほうも、
  枝が伸びていることによって特段何も損害が生じていない場合には、そもそも
  切り取りの請求をしても認められないこともあります。
  ですので、まずは隣地所有者とよく話し合うこと、そして話し合いがつかなかった場合には、
  自分の判断だけで勝手に枝を切り取ったりせず、弁護士などに相談することが必要です。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

Q 地続きの2筆の土地を購入したところ、そのうちの1筆の
  土地上に以前建っていた建物で、かつて殺人事件があったことを
  購入後に知りました。
  事件は約8年前のことだというのですが、
  どうにも気持ちが悪くてたまりません。
  この売買を取り消すことはできないでしょうか。
  取り消しが無理なら、売主に対して損害賠償を請求することは
  できないでしょうか。

A 殺人事件があったとは、衝撃的ですね。
  さらに詳しい事情をお聞きしてみないと何ともいえませんが、
  少なくとも損害賠償請求ができる可能性はあると思います。
  
  不動産取引において、その目的物である土地建物にかつて自殺や
  殺人があったという事実が、目的物の瑕疵(欠陥)にあたるとして
  売買の解除や損害賠償が認められる場合がありますが、
  瑕疵となるかどうかは、法令による明示的なルールがあるわけでは
  ありませんので、個々のケースごとに、自殺・殺人の場所及び事情、
  土地建物の状況、売買までの経過期間、利用目的、地域性などを
  考慮して、判断せざるをえません。
  
  この点、本件のようなケースで、ある判例は「事件は、女性が胸を
  刺されて殺害されるというもので、病死、事故死、自殺に比べても
  残虐性が大きく、通常一般人の嫌悪の度合いも相当大きいと
  考えられること、本件殺人事件があったことは新聞にも報道されており、
  約8年以上前に発生したものとはいえ、本件土地付近の住民の
  記憶に少なからず残っているものと推測されること等から、
  本件土地上に新たに建築された建物を購入しようとする者がその建物を、
  住み心地が良くなく、居住の用に適さないと感じることに合理性が
  あると認められる程度の、嫌悪すべき心理的欠陥がなお存する」
  として、損害賠償請求を認めました。
  
  他方、約7年前に座敷蔵内で首つり自殺があったが、売買前に
  その蔵は取り壊し済みであったという事案で、売買契約時に蔵が
  存在しなかったという理由で瑕疵を否定した判例もありますので、
  あなたの場合も一概に損害賠償請求できるとまではいえません。
  事情をよく検討する必要があります。
  
  いずれにしても、残念ながら、売買契約の解除まで認められている
  ケースは少ないようですので、不動産の売買契約締結前には、
  近所の噂や評判なども可能な限り情報収集しておくことが必要だということです。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

Q 2年前に一戸建てを購入しました。
  しかし、入居の翌日から、隣人に
  「子どもがうるさい、黙らせろ」などと苦情を言われ、
  ひどい嫌がらせを受け続けてきたので、
  思い切って家を売却しようと思います。
  この隣人のことは、購入を希望する人には言わないでおこうと思いますが、
  何か問題はありますか?

A たしかに、そんな隣人がいることを話したら、
  せっかくこの家を買おうと思っている人も買ってくれなくなるかもしれません。
  お気持ちはわかりますが・・・場合によっては問題が生じます。

 
  不動産売買において、ある事柄について売主が買主から
  直接説明することを求められ、かつその事柄が購入希望者の
  契約締結の判断に影響を及ぼすことが予想される場合には、
  そのことについて事実に反する説明をすることは許されないのみならず、
  説明をしなかったり、買主を誤信させるような説明をすることは許されないとして、
  売主に説明義務があるとした判例があります。

  
  この判例では、売主は、隣人から「子どもがうるさい」などと
  激しく苦情を言われただけでなく、洗濯物に水をかけられたり、
  泥を投げられたこともあったというのですが、
  隣人が少しうるさい人であることを知った買主から、
  直接具体的事情を尋ねられた際、売主が
  「隣人からうるさいといわれたことがあるが、今は特に問題ない」
  「近隣の環境に全く問題ありません」と答えたことについて、
  売主の説明義務違反を理由に、
  売主の買主に対する損害賠償義務が認められました。
  

  あなたの場合も、もし買主に隣人のことを尋ねられたら、
  売買代金が何割か下がることを覚悟してでも
  正直に話をしておかないと、あとで損害賠償請求されかねません。
  注意しましょう。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「不動産法マメ知識(森絵里)」の続きを読む

   

リース契約あれこれ(岩城)

■はじめに

 「リース契約」と聞いて、みなさんが想像される契約とは、
 どのような契約でしょうか。
 「『カーリース』と『レンタカー』は聞いたことがあるけど、違いはよくわからない」
 という人もいらっしゃると思いますが、リース契約は、社会生活上あらゆる場面に
 導入されている重要な取引の一種です。
 レンタルとリースは、似て非なるものです。
 レンタルは典型契約(民法に規定されている契約)、
 リースは非典型契約(民法に規定されていない契約)と言え、
 レンタルは民法上の賃貸借契約と同じ意味ですが、
 リースは「賃貸借契約の一種」であるとか
 「売買と賃貸借の複合契約」であるとか「購入代行」などと考えられています
 (私は「購入代行」と考えるべきだと思っています)。
 ちなみに、借りる期間の長短によって両者を分けているわけではありません。

 レンタル
  ・・・典型契約
     賃貸借
     比較的短期のものが多い

 リース
  ・・・非典型契約
     賃貸借契約の一種?/売買と賃貸借の複合契約?/購入代行?
     比較的長期のものが多い

 リース契約は歴史が浅いゆえに、民法に定められませんでした。
 そのため、契約内容・合意内容によってリース契約が規律され、
 今日の複雑多岐にわたるリース契約が生まれました。
 同時に、リース契約には様々な法的問題も出てきています。

 以下では、リース契約について解説しながら、その問題点を指摘したいと思います。

■リース発展の歴史

 今日、リース契約が複雑多岐にわたる理由は、
 リース契約の発展の歴史に原因があります。
 リース契約について、しばしば引用される名著・宮内義彦
 『リースの知識<第9版>』(日経文庫、2008)14頁以下によると、
 「今日知見されている機械・設備リースの端緒は、前述したように製靴機械の
  賃貸借であると考えられますが、1900年代初期には、ほかの機械製品も
  本格的にリースされるようになりました。…第二次世界大戦後の米国で、
  軍需産業から平和産業への切り替えにともなう旺盛な設備資金をまかなうことが
  求められました。これを満たすパイプとして、生命保険、銀行など機関投資家に
  よる不動産リースが活発に行われ、次いで機械・設備の賃貸を主要業務とする
  専門のリース企業が現れました。鉄道車両、トラックなどの単一物件から、
  しだいにその対象物件の種類は拡大され、ついにはリースの金融的な意味に
  着目したリース会社(USシーリング社=1952年設立)が誕生しました。
  …つまり機械・設備を対象とするリースは、その初期には限られた物件
 (製靴機械・電話機・鉄道車両・自動車・船舶など)を対象として
  産業資本(メーカー)によって行われていましたが、
  やがて1950年頃から、専業リース会社が米国経済の複雑な発展過程の
  中から生まれ、対象物件も各種生産機械・設備、事務用機器にまで拡大され」
 てきました。

 つまり、リース契約は、当初は大型機械などの高価なものから導入され、
 現在ではあらゆる機器に拡大されており、また、リース契約は、
 資金調達の一方法として導入されたということです。


■リース契約の具体例

  リース契約はもともと大型の設備機械などから導入されたものですが、
 より身近なコピー機を例にリース契約がどのような契約かを考えてみましょう。

  例えば、コピー・FAX・プリンター・スキャナの機能の付いたコピー機は、
 グレードにより150〜400万円ほどします。
  通常、このコピー機を購入しようとすると、上記の金額をメーカー(あるいは小売店)に
 全額支払って購入することになります(購入する人を「ユーザー」と呼び、
 メーカーのことを「サプライヤー」と呼ぶことにします)。
 コピー機の例の場合、ユーザーは法人(会社)であることが多いでしょうし、
 サプライヤーはゼロックスやキャノンなどでしょう。

  しかし、この場合、ユーザーはかなりの金額を用意しなければコピー機を購入できません。
 しかもコピー機の場合、業務開始時点から必要になるので、
 これから新規に事業を始めようとする人にとっては、事業によって利益が出てから
 購入するということも考えられません。
 そこで、コピー機を購入するために、分割払いや銀行からの借り入れなどを
 検討することになります。でも、常にクレジットカードによる分割払いや
 銀行からの借り入れができるとは限りません。
 また、クレジットカードや銀行からの借り入れを使えても、使いたくない場合もあるでしょう。

  そこで、コピー機の「購入」ではなく、「リース」が検討される余地が出てきます。
 リース契約は、ユーザーとサプライヤーの間にリース会社が入り、
 リース会社がユーザーの代わりにコピー機を購入し、それをユーザーに貸す
  という構図を取ります。
 リース契約を締結するためには、まず、(1)ユーザーがどのコピー機がよいのか選びます。
 ユーザーはリース会社に対し、そのコピー機をリース物件とする?リース契約の申込をし、
 リース契約を締結します。同時に、(2)リース会社はサプライヤーからコピー機を購入し、
 代金を支払います。(3)サプライヤーはリース会社が購入したコピー機をユーザーに
 納品します。(4)リース会社はコピー機がきちんと納品されたことを確認し、
 (5)ユーザーはリース料をサプライヤーに支払います。

 (5)が必要になるのは、リース会社がユーザーに代わってコピー機を購入するとしても、
 実際に店頭に行ってコピー機を購入するわけではないからです。
 リース会社はあくまでユーザーに代わって購入を代行(お金を出すだけ)
 しているにすぎません。
 (6)の「リース料」は、コピー機の代金にリース料率(手数料)を掛けて、
 それをリース期間で割って算出されます。
 ユーザーは「リース料」を支払い、コピー機を借りるため、リース料を
 レンタル代と同視してしまうケース
が散見されますが、そうではありません。


■中途解約の禁止

 
  リース契約は比較的長期の契約が多く、一般の人が締結するリース契約は、
 リース期間が3〜5年のものが多いのではないでしょうか。
 これに比べレンタル契約は、レンタル期間が数時間〜数週間など
 比較的短期のものが多いと思います。レンタル契約は、通常、事前に
 レンタル期間を定め、期間に応じてレンタル料を支払います。
 レンタル期間が比較的短期なので、自分が必要とする期間だけ
 レンタルすればいいのです。長期間のレンタル契約(不動産賃貸借など)
 では、契約期間満了前に、賃借人が解約を申し出ることが前提となっています。
 つまり、レンタル契約は、契約期間が短いもの中途解約できなくても
 困らないし、契約期間が長いものは中途解約が前提となっているのです。

  これに対し、リース契約では、リース期間が比較的長期にわたるため、
 当初の予想と異なり、途中で目的物が不要になる場合やサプライヤーが
 倒産したりする可能性が十分考えられます。
 このような場合に、リース契約を中途解約できれば問題は起きません。
  しかし、リース契約は中途解約できないのが原則です(ノンキャンセラブル)。
 中途解約を認める場合でも、残リース料の全額を支払わなければ
 なりません(フルペイアウト)。
 ユーザーの側から見ると、中途解約ができても残リース料全額を
 支払わなければならないなら、中途解約が禁止されているのと同じです。
 どうしてリース契約では中途解約が禁止されているのでしょうか。

  リース契約は、前回(第2回)述べたとおり、リース会社がユーザーの
 代わりに目的物を購入し、それをユーザーに貸すという契約です。
 これとユーザーが銀行からお金を借りて、そのお金で目的物を買った
 場合と比較してみましょう。

 【リース契約の場合(5年とする)】
  リース料の支払先:リース会社
  支払リース料  :5年間分(リース目的物の価格+手数料+金利等)
  目的物の借入先 :リース会社
 【銀行借入の場合(5年ローンとする)】
  ローン返済先  :銀行
  返済金額的物の価格+ローン金利
  目的物の購入先 :メーカー・小売店など

  このように比べると、両者はユーザーが資金を出さないという
 点では共通し、融資を受け、目的物を購入するという点に違いが
 あるにすぎません
 (リースの場合、リース契約を締結し、目的物を借りる、となります。)。
  銀行借入をした場合に、何らかの理由で売買契約を解除したとしても、
 銀行への返済は継続しなければなりません。
 リース契約は、この銀行借入+目的物の購入・利用を一括して行う
 ために考案された契約ですから、仮にリース契約が何らかの理由で
 解除されたとしても、銀行への返済とパラレルに考えられるリース料の
 支払いがなくなることはないのです。


■リース目的物は「物」でなければならない

  リース契約は、賃貸借契約とは似て非なるものです。リース料金と
 レンタル料金は異なります。レンタル料金は、実際に借りた分だけ
 支払えばよいのですが、リース料金は、どちらかというと
 「(リース物件についての)代金の分割払い」に近い性質を持っており、
 たとえリース期間の途中で目的物を返却したり、目的物が消滅したりしても、
 リース料金の支払いが継続します(フルペイアウト)。
 このように、リース期間分について必ず料金を支払わなければならないところは、
 リースと賃貸借が異なるところです。
 
  一方、契約の目的物が「物」でなければならない点は、賃貸借契約も
 リース契約も同じです。たとえば、車やパソコンなどは「物」ですが、
 ホームページの作成やエステの施術などは「役務の提供」であって
 「物」ではありません。

  賃貸借契約の目的物は、伝統的に、「物」でなければならないと
 考えられてきました。役務の提供は「物」ではないため、賃貸借契約の
 目的物になりえないのです。
 リース契約は、リース会社がリース目的物を買ってそれをユーザーに貸す
 契約のことですから、契約の目的物は「物」でなければなりません。

  また、実際上もリース物件の目的物が「物」でないと、様々な
 不都合が出てきます。たとえば、ホームページの作成をリース契約の
 目的物とした場合を考えましょう。
 この場合、ユーザーはサプライヤーにホームページを作ってもらうことが
 目的となります(役務の提供)。
 しかし、ホームページが完成しないこともあります。作ってもらった
 ホームページが気に入らず何度もやり直しをする場合や、サプライヤーが
 倒産した場合などがそうです。このような場合でも、ホームページの作成契約が
 リース契約だった場合には、たとえホームページが完成しなくても、
 リース契約のフルペイアウトという性質から、
 リース代金を全額支払わなければなりません。
 
  ホームページの作成そのものは、民法上は「請負契約」なので、
 民法の原則からすると、ホームページが完成するまでは代金を支払う
 必要がありません。他方、リース契約の場合は、ホームページの完成の有無に
 かかわらず、代金の全額支払義務が生じてしまいます。
 リース契約の目的物が「物」だった場合は、このような不都合は(一応)生じません。
 「物」であるため、仮にサプライヤーが倒産しても、
 「物」そのものはユーザーの手元に残るからです。


■リース契約は消費者にとって不利なことばかり

  これまで、リース契約は、
 1 解約できない
 2 解約できたとしても残リース料を支払わなければならない
 という点で消費者にとって不利であることを説明してきました。
 しかし、消費者にとってリース契約が不利なのは、これらの点だけにとどまりません。

 
  リース契約は、レンタル契約と似て非なるものです。
 ですから、リース料とレンタル料も全く同じではありません。
 レンタル料は、レンタルする期間に応じた金額ですが、リース料は、
 リース物件の購入価格、金利、保険料、リース会社が支払う税金、管理事務費など
 が合計され、それをリース期間で割った金額になっています。
 しかし、これらのリース料の算定方法を知っている人はほとんどいないでしょうし、
 リース会社もリース料の算定方法について説明することはまずありません。
 というのも、リース料の算定方法を説明すればするほど、リース料が、
 分割払いや銀行の借り入れやクレジット契約に比べて、消費者にとって
 格段に不利であることが明らかになるからです。

  リース契約が誕生した当初と比べ、現在のリース契約は、
 一般の消費者を対象にした「提携リース」と呼ばれる契約が
 多数締結されています。
 みなさんが目にする「リース契約」はこの提携リースがほとんどです。
 しかし、リース契約は、これまで見てきたように、解約できないこと、
 解約しても残リース料を全額支払わなければならないことに加えて、
 そのリース料の設定も、他の支払い方法に比べて、仕組みが
 ブラックボックス化(知らないし説明も受けない)しており消費者にとって
 不利であるなど、デメリットばかりが目立ちます。

  リース契約を締結する際には、これらのデメリットをよく考えてからに
 した方がよいでしょう。

   

ページのトップへ ページのトップへ

TOPICS

アール・イー綜合法律事務所

〒460-0002
名古屋市中区丸の内
2丁目14番20号
ザ・スクエア7階S7
TEL:052-223-1777
FAX:052-223-1776

powered by a-blog
コピーライト